執筆者 (イラストも): | Mark A. Sherman, Pasadena, California; Richard Darsie Davis, California; Ronald C. Read, Oakville, Ontario, Canada; Joseph D'Antoni, Queens, New York, and Will Wirt, Port Angeles, Washington. |
プロジェクト監修: | Will Wirt, Port Angeles, Washington. |
フィールド・コーディネーター: | David Titus, Lawton, Oklahoma. |
カナダの極北地方やアラスカ、シベリアの人々は、数多くの素晴らしいあやとりを伝えてきました。19世紀末からの文化人類学者らの調査によって、この地域のあやとりの取り方は文章記述の形式で記録されています。しかし、その説明文だけで作るのは相当の忍耐力が必要であり、かなりの熟練者でも作れないものが少なくありません。作られていくパターンは非対称形であることが多く、左右の手は、異なるとり方をしなければなりません。また、あやとりを作っている途中の手の位置が様々に変わります—たとえば、指は手のひらの方へ曲げ、腕は外へ向けるというような。この結果、糸の位置関係、すなわち近い糸、遠い糸、上の糸、下の糸といった用語での説明が使えません。「パターンの中央あるいは側面から糸を取り戻す」のような、イラストなしではわかりにくい取り方もたくさんあります。そのため、初心者には、その見事なあやとりのほとんどが手に負えないものとなっています。
そこで、ISFAは、“極北圏あやとりプロジェクト” を提唱しています。“極北圏” という言葉を選んだのは、“イヌイット” がカナダの極北地方に住む人々だけを指し、他の地方—アラスカやシベリアの先住諸民族を意味する語ではないからです。この計画の当面の目標は、Gordon (1905)、Jenness (1924)、Victor (1940)、Paterson (1949) 及び Mary-Rousselière (1969) による調査報告のすべての記述について、あいまいな一節を明確にし、必要な中間段階のイラストを補い、(英語で) 書き直すことです。また、両手で広げられた出来あがりの形のイラストは Victor の文献にしか見られません。
現在、Jenness のコレクション (アラスカ、シベリア、カナダ西部) 全175種類の「あやとり」をオンラインで公開しています (ステップごとの写真画像+英文の取り方説明)。短め、太めの糸を用いてパターンを作っているのは、小さな写真でも取り方がわかりやすいようにするためです。普通の長さ (手の甲に8回巻きつける長さ) よりやや長め、3mm程度の太さの糸で作ると、原著のイラストのように仕上がります。現地の人々は、カリブーやアザラシなどの動物の腱をなめした紐を用いていたそうです。