今日、このサイトで紹介している〈糸遊び〉は全国共通に「あやとり」と呼ばれています。しかし、それはこの10~20年ほどのことで、それ以前は、それぞれの地域の言葉で、さまざまな呼び方がされていました。
1970年代から全国各地で聞き取り調査を続けた斉藤たまさん (⇒ さいとうたま あやとりコレクション) は、これまでに約90種 (方言による些細な発音の相違を含む) の名称を記録しています。代表的な名称は、東日本に広く分布する「あやとり」、西日本での「いととり」ですが、ほかにも「ひもとり、かなとり、たすきどり、はやおどり、あぜとり、かけとり、ちどり、かがりとり、あみとり、てかけ、てとり、てなわ、てがらこ、らんかんとり、ときこ、ぎやぎや、てぃんとんが」などがあります (福音館書店本『あやとりいととり 1』の裏表紙に記載)。
「あやとり」の「あや」とは、糸が “(Xのように) 斜めに交差した形” を意味します。「ふたりあやとり」では、糸の交差しているところで、その糸を取り上げることがよくあります。おそらく、そこから名付けられたと斉藤さんは考えています。上の名称にある「たすき、あぜ、かけ、ちどり、かがり、てがらこ」も “斜めに交差した形” を意味します。たとえば、山口県錦町では「ちどり」と呼ばれていましたが、明治30年代生まれの女性は「ふたりあやとり」で相手に取り方を指示する時に「こうチドリんとことって」と言って教えていたそうです。
語源を解明することはたいへん難しいことであり、また語源が一つであるとは限りません。しかし、豊富なデータに基づく斉藤さん自身による約90種の名称の分類と語源の考察 (ISFA英文会報2004に収録) は、現在では、最も説得力のあるものと言えましょう。
このページでは、各地の名称を集めています。“私たちは、「あやとり」のことを「○○○」と呼んでいた”、“「あやとり」のお国言葉が「……」のページに掲載されている” など、「あやとり」の名称に関わる情報をお寄せ下さい。皆様の協力を得て、データを充実させていきたいと考えていますので、よろしくお願いいたします。
名称 | 地域 | 出典 (文献・ウェブサイト・個人情報) |
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ウカウク (名詞:あやとり、動詞:綾取りする) ウコカウク (動詞:綾取りをする) |
北海道〔アイヌ語〕 | 萱野茂 (1996)『萱野茂のアイヌ語辞典』三省堂 |
あやこあそび | 青森: | 都母の国 |
あやことり | 青森:八戸市、上北郡下田 | 都母の国 ⇒ 「南部弁*遊び (子供) 言葉」 |
たしことり | 岩手:釜石市 | 都母の国 |
たすこどり | 岩手:遠野市附馬牛 | 都母の国 |
とっこ | 岩手:宮古市 | 都母の国 |
とりっこ | 岩手:宮古市 | 都母の国 |
あや | 東京〔江戸期〕 | 山東京伝 (1790)『小紋雅話』 |
あやとり | 東京〔江戸期〕 | 喜多川守貞 (ca. 1853)『守貞謾稿 (近世風俗志)』 |
ちどり | 愛知:(旧) 祖父江町 | 稲沢市立長岡小学校 (拾町野昔の子の遊び) |
ちどり | 岐阜:岐阜市 | 女性 (昭和10年生) |
とりこ | 三重:浜島町 | 浜島方言大辞典 |
ちどり | 石川:加賀市 | 男性 (昭和7年生) |
いととり (いとどり) | 京都〔江戸期〕 | 喜多川守貞 (ca. 1853)『守貞謾稿 (近世風俗志)』 |
いととり | 大阪〔江戸期〕 | 井原西鶴 (1682)『好色一代男』 |
いとどり | 大阪〔江戸期〕 | 井原西鶴 (1684)『好色ニ代男』 |
いととり (いとどり) | 大阪〔江戸期〕 | 喜多川守貞 (ca. 1853)『守貞謾稿 (近世風俗志)』 |
いととり | 徳島 | 鎌谷嘉喜 編著 (1986)『子供の遊びとわらべ唄〈阿波童戯・童謡集〉』原田印刷出版 |
いとんどり | 島根:仁多郡仁多 | 出雲弁の泉 ⇒ 「出雲弁辞書」 |
えととり | 島根:八束郡八雲 | 出雲弁の泉 ⇒ 「出雲弁辞書」 |
いととき | 熊本:玉名地方 | 使える熊本弁講座2 ⇒ 使えない熊本弁 |
アヤートゥエイ | 沖縄:国頭郡今帰仁 | 沖縄言語研究センター ⇒ 「今帰仁方言 音声データベース」 |
あヂー トゥン (動詞:綾取りをする) | 沖縄・国頭郡今帰仁 | 沖縄言語研究センター ⇒ 「今帰仁方言 音声データベース」 |
ムてィー トゥン (動詞:綾取りをする) | 沖縄・国頭郡今帰仁 | 沖縄言語研究センター ⇒ 「今帰仁方言 音声データベース」 |