Last updated: 2023/08/15

あやとりトピックス 231-240

第19回今年も元気に「ゆびはまほうつかい」~善気山遊びの寺子屋報告〜 2023/08/15

「熱中症警戒アラート」が各地に出されている猛暑続きの日本列島。今年の京都も最高気温のトップを維持し続け、街中より一度は低いといわれる法然院も15年目にして私は「今年は暑い!」とうなりました。

今年の「遊びの寺子屋」は本来の状況に戻りました。南書院での『<自由空間>ゆったり、のんびり、おてらですごそう!』は「ゆびはまほうつかい」「絵本の扉をひらいてみよう」「お寺の森のいきものキルト」の企画で、誰でも自由に参加できるようになりました。

開催日時:7月27日(水)・28日(木)11時~16時
講師:青木萬里子(野口廣記念あやとり講習会指導員、国際あやとり協会会員)
加藤直樹(野口廣記念あやとり講習会指導員、国際あやとり協会会員、国際あやとり協会(ISFA) 日本語ホームページ管理担当)
青木幸久(指導補助、写真担当)
テキスト作成:青木萬里子
テキスト内容:「あやとりは日本の遊びと思っていませんか?」についてと、資料として「見立てる」(光村図書 小学5年国語 野口廣著)
作り方の掲載作品は①「ふじさん」②「かに→なっとう→女の子」③「シベリアのいえ(ロシア)」④「大きな魚(ハワイ)」
「遊びの寺子屋」のお知らせ
講師の記念撮影(左から青木萬里子、加藤直樹、青木幸久)

あやとりコーナーとして、書籍は『世界の伝承あやとりシリーズ5冊:「オセアニア1・2」「極北圏」「南北アメリカ」「アジア・アフリカ・ヨーロッパ」』(誠文堂新光社 野口とも著)、「たのしいあやとり:世界のあやとりがわかる 初級中級」(土屋書店 野口廣著)、「あやとりいととり」(福音館書店 斎藤たま著)、「あやとり」(文渓堂 野口廣監修・シシドユキオ文)、「世界あやとり紀行・精霊の遊戯」(INAX出版 シシドユキオ、野口廣、マーク・A・シャーマン著)などを用意しました。また、1本のひもが作り出すあやとりの美しさや不思議さ、あやとりは日本だけでなく世界中にあることもタペストリーが一役買ってくれることを願って、今年も4枚の手作りタペストリーを展示しました。あやとり紐は黄色系の極太毛糸を用意しました。

地域の小学1年生から5年生が、お母さんやおばあちゃんと一緒に参加してくれました。人気のあやとりは「ふじさん」「流れ星」「パンパンほうき」「かに→なっとう→女の子」「コーヒーカップ→東京タワー」「ちょうちょ」「花かご」「2段ばしご」などでした。中には「白鳥」に挑戦する子もいました。「出来るあやとりは何かな?」と話しかけると得意げに見せてくれます。そこで「すごいね!」「上手ね!」「何年生?」「お名前は?」などと言葉をかわしていくと緊張もほぐれていきます。

1日目には東京から福田さん(国際あやとり協会会員、あやとり教室指導員資格者)と伊藤さん(あやとり教室指導員資格者)が参加。挑戦したいあやとりにじっくり関わって下さり、子供たちの顔には汗がいっぱいでしたが満足げな笑顔が可愛らしかったです。指導補助の青木さんは得意な「かに→納豆→女の子」の連続あやとりを何人にも教え、「納豆」の部分になると「昔はわらに包まれてこんな形だったんだよ」と話しながら楽しんでいました。

「お星さまはこうやって・・・」と教える福田さん(右)と伊藤さん(中央)
「かに→納豆→女の子」を教える青木さん(右)

2日目には京都在住の山本さん(第17回遊びの寺子屋あやとり検定受験者)も参加。「コロナの間はあやとりはお休み状態だったので指が思うように動かないです」と言いながらも、女の子たちに囲まれてあやとりをしていました。

女の子たちと一緒にあやとりする山本さん(中央)

昨年も参加の大和君は5年生になり普段あまりあやとりをしていないとのことですが、指がしっかり覚えています。今年も中級・上級あやとりに挑戦。最近私が気に入ったあやとりを大和君に挑戦してもらいました。「サガリバナ」(ソロモン諸島)はマングローブの湿地帯で真夏の夜一日限り咲く美しい花だそうですよ。」とお話しするとお父さんが早速スマホで調べ「こんな花があるんだ、きれいだ!」と大和君に見せていました。三角形の花の形を見事にあらわしたあやとりです。

次は「クハとラチ(ラバヌイ;イースター島)」「マウイの4兄弟」(ニュージーランド)などの超上級編。千葉から参加の石野さん(野口廣記念あやとり講習会指導員、国際あやとり協会会員)が担当です。大和君は出来ると納得するまで繰り返します。教わる側だった大和君は大人に「やってみる?」と声をかけ教える側になります。このようにして自分のものにしていくんですね。妹さんも1段から6段までの梯子ができるようになり、挑戦する気持ちは大和君と同じです。

大和君(右)や妹さん(中央)が今年も参加して下さいました
石野さん(右)に教わる大和君(左)

両日共、海外からの方々が何家族も参加して下さいました。

フランスからの少年はタペストリーを指さして「・・・。」(多分あれをやりたいとフランス語で言ったのでしょう)細めのひもを手渡すと、見様見真似で指を動かしています。素晴らしい!「ナバホのじゅうたん」の完成。自分で復習もしていました。次に彼はカタカナをスマホに打ち込んで「これ・・・・」と見せてくれるんですが私はチンプンカンプン!。もしかしてと「4段梯子」を見せると大喜びしながら指で「それ!それ!」と応えていました。早速はじめの構え。すいすい取れて完成。きっと以前にやったことがあるのかしら?多いに感激していました。世界中にあると言われる「カップ&ソーサー」は形が完成して飲むジェスチャーで彼は納得の笑い!

まだ続くんです。ジェスチャー交じりのフランス語。加藤さんが星かもしれないと感を働かせ「流れ星」(シシドユキオさん創作あやとり)を作ると、大喜びされ早速一緒に挑戦していました。言葉がわからなくてもつながりますね。あやとり万歳!!です。ゆったり、のんびり、おてらですごされた家族でした。最後に「あり・が・とう・ご・ざい・ま・し・た!」と挨拶されて帰っていきました。

国や言葉は違えどあやとりで繋がる世界!
「流れ星」の完成!

オランダからのご家族はお母さんが率先してひもを手にした途端すいすいと作り始めました。息子さんや娘さんはあやとりをするお母さんを見るのは初めてなのでしょうか?キョトンとした表情、心なしか遠目で見ていたお父さんも引き付けられて思わず参加。加藤さんが「皆さんで富士山してみましょうか?」とまずお母さんにご指導、息子さんもとれるようになり、あとは娘さんとお父さん。 お母さんがしっかり取れるように丁寧に教えていました。京都観光中に家族そろってあやとりをしてくださりありがとうございました。

あやとりが織りなす家族の絆が垣間見えました

今年はイタリア、オランダ、フランス、スペイン、イスラエルの国々の方が参加してくださいました。

法然院の住職・梶田さん、森のセンターの久山さんを始め関係者の皆さん、本当にお疲れさまでした。3年間のコロナにもめげずこうして再び遊びの寺子屋を実施できたことを心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

青木萬里子@ISFA

“Cat's Cradle” (猫のゆりかご) の語源 -22023/07/19

20年前に掲載したトピックス009では、英語での「あやとり」の名称、 “String Figure(s)” あるいは “Cat's Cradle(s)” について触れられており、“Cat's Cradle” (猫のゆりかご) の語の由来について深掘りしています。

しかし、その後の調査によりその内容に一部誤りがあり、追記・修正が必要であることがわかりました。誤解を招くことを避けるため、その後登場した新たな由来の説と合わせて述べたいと思います。

トピックス009では、冒頭で次のように述べられています。

英語では「あやとり」を “String Figure(s)” あるいは “Cat's Cradle(s)” と言います。“String Figure(s)” は文字通り「糸の形、模様」であり、19世紀の終り頃、研究者が使い始めたようです。

文末「19世紀の終り頃、研究者が使い始めたようです」とありますが、これは1902年のRiversとHaddonの著(*3)にて、

We employ the term "string figures" in those cases in which it is intended to represent certain objects or operations. The "cat's cradle" of our childhood belongs to this category. "Tricks" are generally knots or complicated arrangements of the string which run out freely when pulled. Sometimes it is difficult to decide which name should be applied.

(拙訳)私たちが「string figures」という言葉を使うのは、それが特定の物体や操作を表すことを意図している場合である。子供の頃の「cat's cradle」はこのカテゴリーに属する。「Tricks」は一般に、紐の結び目や複雑な構造だったものが、紐を引っ張るとスルリとほどけるものである。どちらの名称を適用すべきか判断に迷うこともある。

とあり、“String Figure(s)” の語について定義されています。これ以前の文献(例えばBoasの著(*1)や、Teitの著のSmithによるスケッチ(*2)など)を見ると、あやとりを指す名称として “Cat's Cradle” が用いられており、この1902年の文献が “String Figure(s)” をあやとりを指す名称として用いた最初のものだと考えられます。

トピックス009では上記冒頭文の後、まだ明らかにされていない “Cat's Cradle”(猫のゆりかご)の語の由来の解明に取り組んでいるイギリス在住のISFA会員、Abraham氏の仮説について以下のように紹介しています。

“Cat's Cradle” の語が文献上に現れるのは、1768年版のオックスフォード英語辞書 (OED) が最初です。

しかし、この記載は誤りであることが明らかになりました。デジタルアーカイブ化された1768年版のオックスフォード英語辞書 (OED) には、“Cat's Cradle” の語は見られません。一方で、1893年版のOEDには、1768年のTuckerによって書かれた本に “Cat's Cradle” の語が記載されているとの説明があります。

Abraham氏の著書(*4)において、該当箇所と思われるところを見ると、

As far as the written evidence goes, the first person to mention cat's cradles in English literature was Tucker in 1768. According to the complete edition of the Oxford English Dictionary he wrote: "An ingenious play they call eat's cradle; one ties the two ends of a pack thread together, and then winds it about his fingers, another with both hands takes it off, perhaps in the shape of a gridiron, the first takes it from him again in another form and so on alternately changing the pack thread into multitude of figures whose names I forget, it being so many years since I played at it myself."

(拙訳)文献上の記録としては、英語で初めてcat's cradlesに言及したのは1768年のTuckerである。オックスフォード英語辞典の完全版によると、彼はこう記している。「cat's cradlesと呼ばれる独創的な遊びで、一人が荷造り用の糸の両端を結んで指に巻きつけ、もう一人が両手でその糸を取り、格子状のような形にし、最初の一人がまた別の形にして取る。そうやって交互に糸を取って多数の図形に変えていく。それらの図形の名前は忘れたが、何年も前にそれで遊んでいた。」

とあります。従って、OEDが初めてではなく、

“Cat's Cradle” の語が文献上に現れるのは、1768年出版のTuckerの本が最初です。

が正しい内容となります。(Abraham氏が誤っていたのではなく、トピックスの記述が誤りだったということです)

ちなみに、このTuckerの哲学書「THE LIGHT OF NATURE PURSUED」はデジタルアーカイブ化され、2023年7月にネット公開されており、“Cat's Cradle” の語が記載されている箇所を実際に見ることができます。(22ページ)

また、トピックス009で紹介されているAbraham氏の著書の出版年は、1987年ではなく1988年が正しいです。

さらに、トピックス009の続きには、

しかし氏は、航海用語での “cat” や “cradle” が、“Cat's Cradle” に結びつくことを明示できれば、有力な説になると考え、これらの用語の調査を続けています。

とあり、Abraham氏が上記1988年の本で航海用語に関する説を唱えているような記述です。しかし、実際は、国際あやとり協会誌「BISFA - Vol.7 (2000)」にてこの説が唱えられています。

トピックス009以降、異なる説も複数現れました。

2007年の協会誌「BISFA - Vol.14 (2007)」には、小さなハンモックのようなものを作り、その中に帆を収納する「bowsprit netting」と呼ばれるものや、「Cat-harpings」という、マストを支えるロープのことを指す言葉があり、これらが “Cat's Cradle”(猫のゆりかご)の由来となったのではないか、という説が掲載されています。

2015年の協会誌「BISFA - Vol.22 (2015)」では、まさに「猫のゆりかご」そのものが存在し、それが由来になったのではないか、という説が掲載されています。 船乗り猫は、乗組員の大事な積荷を噛んで傷つけるネズミなどを捕まえるために飼われ、イギリスの海軍艦艇の中で、小さなハンモックの中で眠る船乗り猫の様子が1941年に撮影されました。この写真はイギリスの歴史博物館である帝国戦争博物館(Imperial War Museum : IWM)が所蔵しており、現在はパブリックドメインとして博物館のWebサイトで見ることができます。

“Cat's Cradle” の語の由来はいくつもありますが、未だ真実は明らかになっていません。 こうした謎を紐解いてみるのも面白いでしょう。

(*1) The Game of Cat's Cradle : Franz Boas (1888)
(*2) The Thompson Indians of British Columbia : James Teit (1900)
(*3) A Method of Recording String Figures and Tricks : W. H. R. Rivers & A. C. Haddon (1902)
(*4) String Figure : A. Johnston Abraham (1988)
加藤直樹@ISFA & k16@ISFA

昭和十二年開催 西洋好事本展覧会 あやとり洋書展示 2023/07/11

明治2年(1869年)に誕生した「丸善」は、西洋文化・文物の導入という創業目的のもと、書籍だけでなく、万年筆やタイプライターなど様々な商品を輸入紹介していました。昭和時期、洋書の輸入販売を表看板としていた丸善は、一般の人々の関心を高めるために、洋書に関する展覧会を数多く開催しました。

そのうちの一つ「西洋好事本展覧会」は、昭和十二年(1937年)に東京本店、大阪・名古屋支店と巡回開催されたもので、この展覧会の内容については1980年発行「丸善百年史(*1)」の第十五章(洋書の展覧)で触れられています。以下その内容を引用します。

(A) 西洋好事本展覧会

好事家の好みに投じて珍書奇書を展示したのがこの展覧会で、左に挿入した「西洋好事本展覧会略目」(「学鐙」広告)からその一端を察することが出来るように、八十九項目四三○部の好事本が展覧され、売約に応じた。尚、観客の便に供するため、菊判約九○頁に及ぶ立派な目録が出版され、木村毅の序文を巻頭にして出陳書籍の解説を加えた極めて重宝なものであった。

西洋好事本展覧会略目

本略目は別記西洋好事本展覧会に出陳中より採択せるもの、珍書あり、奇本あり、怪書あり、魔書あり、其項目を挙ぐれぱ看板広告・迷路(八幡の薮知らず)・爪楊枝・あやとり・火と焔・洞窟・暦・水の映像・明滅漫画・棉の伝説・若者と娘・ローマ水道・アラビヤの井戸・アラビヤ数字・ハレム・消防・世界災厄史・潜り・花火・錬金術・選挙史・放送局・性・糞便学・割礼・貞操帯・性器及大蛇崇拝・鞭打ち・医学史・薬物史・おばけ・悪魔・魔神・おまじなひ・迷信・夢・墓・葬式・屍体発掘・焼場・紋章・姓氏・Signs & Symbols・ 侏儒・サーカス・見世もの・ジプシー・乞食・浮浪人・服飾・帽子・ステッキ・美粧・博物館・乗もの・切手・武器・指輪・古銭・玩具・ベル・名鐘・煙草・酒・珈琲・茶・釣・賭博・富鍍・動物文学・カルタ・デスマスク・民芸・あやつり・風景等々。

変わったものが沢山ありますが、この中に「あやとり」が並んでいるのは大変興味深いものです。 実際にこの展覧会で、どのようなあやとりの洋書が展示されていたのか気になり、出版された目録を古本屋で入手しました。

目録には各項目ごとに洋書430冊の情報と、それぞれの本の簡単な解説が記載されており、時折洋書の表紙や挿絵の写しが掲載されていました。

あやとりの項目を見ると、展示されていたとされる洋書の紹介は1冊のみで、1906年にC. Scribner's sons出版、C. F. Jayneによって書かれた「String figures: a study of cat's-cradle in many lands」の本でした。

この本は世界各地のあやとり作品の作り方が、途中の工程もイラスト付きで解説されたあやとり教本で、1962年には再販もされています。現在ではパブリックドメインとしてデジタルアーカイブ化され、誰でも中身を見ることができますが(*2)、再販本をネットで購入することもできます。

目録に記載されていたこの本の解説文を以下引用します。

アヤトリの話。著者は歐羅巴、亞米利加を初め、亞細亞、南洋、北洋と各民族の間に行はれる遊び方を調べてアノ手コノ手百種類について一々丁寧な繪解きをする。この魅惑に富んだ遊戯を老ひにも若きにも勸めて其の興味を一般に均霑させ樣とする意圖だそうである。然しそう云つて了へば只の娛樂本であるが、其の中に說かれる地理的分布と相互關係の研究は、土俗學上に立派な示唆を與へるものである。

日本では、古くは江戸時代から親しまれてきたあやとり遊びが外国でも存在しており、また国や地域によって様々な特徴があることが、当時は物珍しかったのでしょうか。

また、文学評論家・木村毅による目録の序文も興味深い内容だったので、一部引用します。

好事書とは、俗な言葉で云へばゲテモノだ。 このゲテモノは概して、智識的にも、經濟的にも若干の餘裕を生じて來ないと趣味が湧いて來ないらしい。 原論の講義の筆記に夢中になつてゐる大學生は、賭博や、珈琲や、キッスの本に興味を誘發されるカルチュアな餘裕があるまい。 時代から云つてもさうなので、明治の初年のやうな草創時代には、概して謂はゆるタメになる本しか、譯されもしないし、出版されもしない。 それが今、こんな書物の展覽會が、堂々と催されるやうになつたのは、それだけ日本の一般文化にも、又經濟的にも、ゆとりが生じ、餘裕が出來てきた證據だ。 これを機會に、かうした洋書ゲテモノ趣味が、注意され、普及され、そして同好の會でもできるやうになれば、更によいと思ふ。その次ぎには、この同好者が自分の珍本の持ちより展覧會を開くやうなことにでもなれば、丸善は元より會場を拒むものではあるまい。

この展覧会が開催される十年ほど前の頃から、あやとりに惹かれ、海外のあやとり文献収集・研究に励む日本人がいたことを以前紹介しましたが(トピックス 211)、この時代に海外のあやとりを研究する人が現れたというのは、上記序文で述べられているように、日本の文化・経済においてゆとりが生じ、余裕が出てきたという時代背景を踏まえると、不思議なことではなかったのだと思われます。

展覧会で紹介された洋書は一冊でしたが、現在ではインターネット上で1000以上の文献目録を見ることができます(*3)。また、パブリックドメインとしてネット公開されている文献を集めたページもあります。⇒ こちら

それらから興味を持った文献を見つけたり、実際に本を手に入れてあやとりに興じてみるのも良いでしょう。

(*1) 1980年発行の「丸善百年史」は、丸善公式サイトからPDFで内容が公開されています。⇒ こちら
(*2) Jayne, C. F. (1906). String figures: a study of cat's-cradle in many lands. C. Scribner's sons.
(*3) Storer, T. (2000). String Figures Bibliography – 3rd Edition ISFA. (T. Storer博士が編纂した文献目録で、2000年当時のほぼすべてのあやとりに関する文献が網羅されています)
加藤直樹@ISFA

日本最古のあやとり絵画 2023/07/04

トピックス074でも紹介していますが、あやとり遊びの情景を描いた最古の文献は、美人画絵師の西川祐信によって描かれ、享保九年(1724年)に刊行された、墨刷木版絵本『絵本大和童』です。

また、この本の複製本が1979年に臨川書店から出版されています。

その複製本は現在、国立国会図書館に所蔵されており、複写サービスの利用規程に従い、あやとり遊びの情景が描かれたページをスキャンしました。そして、この複製本を出版した臨川書店様から、スキャンした絵画を当ウェブサイトに掲載する許可をいただきました。

※クリックすると拡大します

菊の花遊びする子どものかたわらで、二人の女の子が二人あやとりで遊んでいる様子が描かれています。

この墨刷木版絵本が、あやとり遊びを描いた日本最古の絵画資料になります。

加藤直樹@ISFA

第31回野口廣記念あやとり講習会・あやとり検定報告 2023/06/18

新装なった代々木のオリンピックセンターで、2023年5月20日(土)に第31回野口廣記念あやとり講習会と検定を開催しました。

会場となる教室は広い80人部屋を予約してありましたが、今回は久しぶりの開催のためか、多くの参加者の方で部屋はいっぱいになりました。

会場の様子

今回も関東一円の他に大阪や広島から、そして九州の宮崎からも小学生の兄弟が保護者と共に参加されました。

講習会は初級、中級、上級クラスに分かれて指導されますが、まずはそれぞれの指導員によって、今日指導するあやとりの実演があります。

初級クラス、最初は青木萬里子先生により初夏にちなんで山のあやとりを2つ、日本の「富士山」とジンバブエの「バトカ峡谷」が選ばれました。とり方の違いでお国柄が伺えるあやとりです。次に伊藤ひで先生により「かに→納豆→女の子」と折り紙で作ったわっかを用いて「コイン落とし」が選ばれました。続いて「あやとり教室指導員」の資格を取得した中1の稲垣玲君によって「ぱんぱんほうき」と「ネズミの顔」が選ばれました。

バトカ峡谷
かに→納豆→女の子
ネズミの顔

中級クラスでは、まず吉田仁子先生によってナバホのあやとり「テントの幕」と日本の「お守り」が選ばれました。続いて福田恵美先生によって同じくナバホの「たくさんの星」とアラスカの「かもめ」が選ばれました。どれも素敵なあやとりですね。

お守り
たくさんの星

上級クラスはいつもの通り杉林武典先生によって壮大なパプアニューギニアのあやとり「天の川」が選ばれました。「天の川」はフジテレビによってベストワンに選ばれたあやとりです。続いて、服部知明先生によって極北圏のあやとり「ダンスハウスで踊る人々」が紹介されました。寒く長い冬の夜、極寒の地に住む若者たちはダンスハウスに集まって歌ったり踊ったりして楽しんでいた様子を描写した珍しいあやとりです。上級クラスの最後は小2の時に「あやとり教室指導員」の資格を取得した大坂聡志君によって人気度の高いカナダのあやとり「耳の大きな犬」が選ばれました。

天の川
ダンスハウスで踊る人々
耳の大きな犬

参加者たちはそれぞれ自分のとりたいあやとりの先生の近くに移動しながら、熱心にあやとりに取り組んでいました。

初級クラス
中級クラス1
中級クラス2
上級クラス1
上級クラス2
上級クラス3

【検定】

講習会と同日同会場で午後3時20分より4時半まで、「第31回あやとり検定」が行われました。検定員は講習会と同じく初級は青木先生と伊藤先生、中級は吉田先生と服部先生(一部)、上級は杉林先生と服部先生(一部)でした。

検定は、初級3種とれると合格。中級2種とれると合格。上級1種とれると合格です。1日に一人10回まで受けられるので、1日で何枚も合格証を取得した人達もいますよ。

合格証おめでとうございます!

また初級の合格証を1枚、中級の合格証を3枚、上級の合格証1枚で合計5枚の合格証を集めると「あやとり指導員認定書」が贈られる仕組みになっています。指導員になられた方は、お友達やおうちの方などにあやとりの楽しさを教えてあげてくださいね。

更に初級2枚、中級3枚、上級5枚集めた場合は、「あやとり教室指導員」の資格を取得する権利が与えられます。「あやとり教室指導員」の資格を取得するには実技試験の他に筆記試験、アンケートなどの提出もあり、指導の実習も加わるハードルの高い資格です。この資格を取得した人はご自分であやとり教室を開いたり、あやとり講習会での指導をお願いする等、様々な活躍の場が与えられます。

今回この「あやとり教室指導員」の資格を取得したのは、小学3年生の成松高嗣君、小学6年生の藤本湊大君、社会人の吉川遥さん、竹原庸光氏の計4人でした。

検定は順調に行われ、受験者の皆さんも合格証を手にした喜びと達成感に満たされて、それぞれ明るい笑顔での解散となりました。


【第3回小規模検定】

5月20日の検定で時間切れとなって受験できなかった人等のために6月10日に追加の検定を行いました。検定員は杉林先生にお願いしました。

受験者は3名で、そのうち2名は「あやとり教室指導員」に挑戦しました。

先ず、吉井よし子さんが初級2回上級2回で受験しました。すでに取得した合格証と合わせると初級2枚、中級3枚、上級5枚になり、めでたく「あやとり教室指導員」の資格を取得しました。

賞状授与
吉井さん
ひきがえる

次に挑戦したのは小2の栗田亮佑君、初級1回と上級4回で受験しました。すでに取得した初級1枚、中級3枚上級1枚の合格証と合わせると初級2枚、中級3枚、上級5枚になり彼も「あやとり教室指導員」の資格を取得しました。

栗田くん
パプアニューギニアのかに
天の川

最後はすでに「あやとり教室指導員」の資格を取得している指導員の服部知明氏で、彼は誰よりも多くの合格証を取得しています。

服部氏
盃→蝶→猫
サンゴ

これでハードルの高い「あやとり教室指導員」の資格を取得した人は2023年6月現在で27人となり、そのうち小学生は7人となりました。

これから講習会その他であやとりの普及や指導に大いに活躍してくれる事と楽しみにしています。

報告:あやとり講習会・検定世話人 野口とも@ISFA & 写真提供:青木幸久、野口愛、嶋津香、野口とも@ISFA

あやとり教室指導員目指し「あやとり検定」初挑戦 2023/05/15

ISFA会員・宮崎あやとり同好会会長の中武英則氏から指導を受けている小学三年生が、あやとり教室指導員の資格取得を目指し、今月20日に東京で開催予定の「あやとり検定」を初めて受けるとのことで、その意気込みや練習の様子などが、新聞記事に掲載されているとの情報を中武氏からいただきました。

オンライン版から記事を読むことができます。⇒ こちら

加藤直樹@ISFA

〔追記〕2023/05/27

先日開催された「あやとり検定」であやとり教室指導員の資格を取得したとのことで、地元テレビで紹介されました。⇒ こちら

ダイヤモンドを連続して1つずつ増やす・減らす方法 2023/05/15

今回は、ダイヤモンド(梯子の捻れのないもの)を、同じ工程で1つずつ連続して増やしたり減らしたりする方法のご紹介です。

今まで、伝承あやとりのなかにも、2つずつ連続してダイヤモンドを増やしていく技はありました。「引き潮満ち潮」や「マヌジエの槍」などです。 また「能力アップ!あやとり」の本や協会雑誌 BISFA-11 にも、1つずつ連続してダイヤモンドを増やす取り方が載っています。BISFA-11には、連続して1つずつ減らす取り方も載っています。

しかし上記の本・雑誌に掲載されている技はいずれも、始めのダイヤモンド数が奇数と偶数では、増やしたり減らしたりする工程はそれぞれ異なっています。 そのため同じ工程で1つずつ連続して増やす、もしくは減らす技を見たことがありませんでした。

長谷川浩氏がこの技を開発したので、是非皆さんにも知ってもらいたいと思い投稿しました。

「あそびをせんとや」の2023年2月13日の記事がそれです。

0個のダイヤモンドから、1つのダイヤモンドにする工程と、1つのダイヤモンドから、2つのダイヤモンドにする工程は若干違います。 しかし、1つのダイヤモンドから、2つのダイヤモンドにする工程からは同じことの繰り返しで、ダイヤモンドを増やすことができます。

もちろん下の写真のように無限に増やすこともできます。

また同じ工程の繰り返しで、連続して1つずつ減らすこともできるのです。

上のリンクの記事には、このあやとりをどのように思いつき、どう考えていったのかも記載されており、興味深い内容になっています。

是非、みなさんも連続して1つずつダイヤモンドを増やしたり減らしたりするあやとりに、挑戦してみてください。

吉田仁子@ISFA & 加藤直樹@ISFA

あやとりの展示 2023/01/15

東京都調布市「市民プラザあくろす」で昔遊びを広める会「たま川お手玉の会」による「折り紙、ときどきあやとり、そしてお手玉」という展示会が開催されました。

場所:東京都調布市国領市民プラザあくろす2階市民活動支援センター
日程:2023年1月4日〜1月21日
時間:10時〜18時(最終日のみ10時から15時)

「たま川お手玉の会」(代表伊藤ひでさん)は長年、調布市や狛江市で、幼稚園保育園、小学校、地域イベントなどで昔遊びを広める活動を続けてきました。

今回は市民活動センターで展示会を行いました。折り紙やお手玉の展示の中に、あやとりの展示があります。

あやとりは世界中にあることを伝えています。野口とも先生の言葉や、あやとりの書籍の展示もありました。

あやとりの展示は4人の高齢者がひとつひとつ手作りしたもので、数集まるとシンプルのなかにも美しく、目を引くものになりました。なかには「耳の大きな犬」や、「白鳥」「カエル」など難しいあやとりもあります。

この展示は、見た人に「私も何かできるのでは」という刺激を与えるものになり、展示の予約が増えているそうです。

吉田仁子@ISFA

「パターンあやとり」のすすめ その3:「二段梯子」を終了処理に使って 2023/01/11

長谷川浩氏が提唱する「パターンあやとり」の、ごくごく一部のご紹介です。 今回は「二段梯子」を終了処理に使ったあやとりとその応用です。 簡単な発想の転換で、誰でも創作あやとりができる、まさに「パターンあやとり」の真骨頂です。

長谷川浩氏のサイト「あそびをせんとや」の2022年10月23日のあやとりを参照してください。 ここにある

  1. パターンを人差し指と小指に移す
  2. 二段梯子

という発想が独創的で、今回注目してほしい点です。

以下はこの応用です。「二段梯子」を終了処理に使うと、左右に捻れた輪ができます(できない場合もあります)。それぞれに個性的な捻れた輪をお楽しみください。 なお今回は写真のご紹介にとどめ、詳しい取り方は表記いたしませんでした。取り方をお知りになりたい方は、国際あやとり協会までお問い合わせください。吉田がお答えします。なお、紐は多くは2.4mを使っています。

1:「ナウルの太陽」の後に「二段梯子」を行なったもの

「ナウルの太陽」
「ナウルの太陽」→「二段梯子」

2:「二つの星」の後に「二段梯子」を行なったもの

「二つの星」
「二つの星」→「二段梯子」

3:三重の「二つの星」の後に「二段梯子」を行なったもの

三重の「二つの星」
三重の「二つの星」→「二段梯子」
三重の「二つの星」→「二段梯子」→「二段梯子」

4:「テリハボクの花」の後に「二段梯子」を行なったもの

「テリハボクの花」
「テリハボクの花」→「二段梯子」

5:「アメアング」の後に「二段梯子」を行なったもの

「アメアング」
「アメアング」→「二段梯子」

6:ねじらない「ダンスの舞台」の後に「二段梯子」を行なったもの

ねじらない「ダンスの舞台」
ねじらない「ダンスの舞台」→「二段梯子」

7:「ダンスの舞台」の後に「二段梯子」を行なったもの

「ダンスの舞台」
「ダンスの舞台」→「二段梯子」

8:「焼け焦げた葉のククイ」の後に「二段梯子」を行なったもの

「焼け焦げた葉のククイ」
「焼け焦げた葉のククイ」→「二段梯子」

なお、あやとりの名称は石野恵一郎氏の「あやとりしてみよう」をご参照ください。

吉田仁子@ISFA

ガーナのあやとり未公開作品の紹介 2022/11/11

2022年9月および10月に、ISFA会員の大坂聡志くん(現在8歳で小学2年生)が、学校の国際授業の先生であるガーナ人のジョー先生から、二つのガーナのあやとり作品の取り方と、母国でのあやとりにまつわる経験について聞き取りを行いました。

大坂くんはあやとり教室指導員としても精力的に活動されており、その様子が地元紹介誌(*1)(*2)(*3)で多数紹介されているほか、 今月11月4日に発行された新聞記事には、今回のトピックスで紹介しているガーナのあやとり作品の聞き取りの件についても触れられています。

作品を教えてくださったジョー先生曰く、あやとりに歌や占い・宗教的な関わりなどは聞いたことがなく、母国ではあやとりは単に子どもの遊びだったそうです。 先生は小学生の頃に、母国で友達からあやとりを教わり遊んでいたとのことで、今でも覚えていらっしゃった二つの作品を大坂くんが聞き取りました。

その二つの作品について、ガーナのあやとりが掲載されいてる過去の文献(*4)(*5)(*6)を調べたところ、文献にはどちらの作品も記載がなく、 おそらくガーナのあやとりとしては未公開作品であったことが判明しました。

今回、大坂くんとジョー先生に作品公開の承諾をいただきましたので以下紹介します。

一つ目の作品は、世界では「ねずみ」や「指抜き」といった呼び名で知られる作品とよく似ていますが、 遊び方が少し異なり、一人ではなく複数人で遊ぶ作品です。先生曰く、作品の呼び名は分からないそうです。

【取り方】

  1. 左手の親指を上にして、左親指に紐をかける。一方の糸は手のひらに、もう一方の糸は手の甲に、それぞれ糸を垂らす。
  2. 次の1か2の工程のいずれかを行う。
    1. 右人差指を左手のひらの糸の下を通し、左親指と左人差指の間から甲の糸を上から引っ掛けて引き出し、向こうに半回転ひねる。ひねった輪を左人差指に上からかけて、右人差指の輪を放す。
    2. 右人差指を左手のひらの糸の下を通し、左親指と左人差指の間から甲の糸を上から引っ掛けて引き出し、引き出した輪を左人差指に上からかけて、右人差指の輪を放す。
  3. 2.1もしくは2.2と同様に、左人差指と左中指の間から糸を引き出して、左中指にかける。
  4. 2.1もしくは2.2と同様に、左中指と左薬指の間から糸を引き出して、左薬指にかける。
  5. 2.1もしくは2.2と同様に、左薬指と左小指の間から糸を引き出して、左小指にかける。
  1. AさんはBさんに「左手の人差指・中指・薬指・小指は悪い人です。どの人が捕まると思いますか?」と質問し、Bさんは、捕まると思う人にあたる指をAさんに伝える。
  2. Bさんの予想が当たっているか確認するため、Aさんは左親指の輪をそっと外し、右親指と右人差指で垂れた輪の手のひら側の糸を左小指の近くでつかむ。右手を右に引くと、2.1の工程をした指の糸は左手からスルスルと外れるが、2.2の工程をした指の糸は引っかかる(悪い人が捕まる)。

二つ目の作品は「ドラム」と呼ばれる作品です。4段ばしごの途中までの取り方となります。

【取り方】

  1. 人差指の構えから、親指の糸を外す。
  2. 親指を全ての糸の下を通し、小指向こうの糸をとる。
  3. 小指の糸を外す。
  4. 親指を人差指手前の糸の上を通し、人差指向こうの糸を下からとる。
  5. 小指を人差指手前の糸の上を通し、親指向こうの糸を下からとり、親指の糸を外す。
  1. 親指を人差指の輪の上を通し、小指手前の糸を下からとる。
  2. 人差指手前の糸を指の近くでつまんで親指の上にかける。
  3. 親指の下の輪を上の輪を超えて外す(ナバホ取り)。
  4. 人差指を親指の輪にかかっている三角の中に上から入れ、小指の糸を外し、人差指を下から向こうに回して上に向ける。手のひらを向こうに向けて展開する。
ジョー先生が大坂くんに、完成した「ドラム」の作品を披露しているところ。

このドラムの取り方を詳しく調べたところ、取り方の順番にとても興味深い点があることが明らかになりました。 それは、最初の取り方がドラムと共通の「4段ばしご」の地域性と関連があるということです。

日本やアメリカ、アイルランドで伝承されている4段ばしごの取り方と、アフリカで伝承されている4段ばしごの取り方では、工程3と4の順番が異なっていることが過去の文献で既に明らかになっています。 上記工程の順番でとるのが、アフリカで伝承されている4段ばしごの取り方で(*7)(*8)(*9)、工程3と4を入れ替えた取り方が、日本やアメリカ、アイルランドで伝承されている4段ばしごの取り方(*10)(*11)になります。

そして、ガーナのあやとりが掲載されているどの文献(*4)(*5)(*6)にも、「ドラム」だけでなく「4段ばしご」も掲載されていませんでした。 そのためガーナでも、4段ばしごの工程3と4の順番が日本やアメリカ、アイルランドで伝承されているものと逆であることが、このドラムの取り方の順番から推測され、 4段ばしごの取り方において、アフリカでは一部取り方が逆というのがよく見られることを後押しする発見にもなりました。

また、イングランドのデヴォン州に住む1880年生まれの女性が伝承した作品の一つに「猫のひげ」と呼ばれる作品があることが、2011年のBISFA会報誌(*12)に掲載されています。この「猫のひげ」の作品は、ドラムの取り方の工程3と4の順番を入れ替えた工程5までの取り方(日本やアメリカ、アイルランドで伝承されている4段ばしごの途中までの取り方) になります。

ジョー先生が生まれ育ったガーナのブロング=アハフォ州(現在はボノ州、東ボノ州、アハフォ州に分割されている)では、ドラムは伝統的なお祭りでよく用いられており、 小さなお祭りだと約二か月に一回お祭りが開催されていたようです。そうしたお祭りのたびにさまざまな形のドラムを使っており、ドラムは身近な存在だったとジョー先生は話されておりました。

この形の作品に対して、「猫のひげ」ではなく「ドラム」と名付けられていることから、それだけ「ドラム」が身近な存在であったことが推測され、 それを裏付けるお話も伺うことができました。あやとり作品の新たな発見によって、その国の風習が垣間見れるのはとても面白いことだと思います。

こうしたあやとりの面白さ・新たな発見を伝えてくださり、作品紹介を承諾していただきました大坂くんとジョー先生、文献調査にご協力くださいましたISFA代表のシャーマンさんに御礼申し上げます。 また今回の記事作成にあたり、ISFA会員の加藤がジョー先生に追加取材を行いました。取材にご協力していただきましたジョー先生に改めて感謝申し上げます。

最後に大坂くんのコメントを紹介します。

(大坂くん) これまで多くの人があやとりを採集してきましたが、私が採集出来るとは夢にも思わなかったので、今回の事で2つも採集出来て嬉しく思っています。 思い切って質問しにいって良かったと思うし、色んな方に協力してもらってとても有り難かったです。

(*1)子どもも楽しい夏に -大坂さんのあやとりも-』、タウンニュース (2022/08)
(*2)多世代交流の場を -まちの先生が活躍-』、タウンニュース (2022/08)
(*3)神奈川で最年少 あやとりの先生』、タウンニュース (2022/11)
(*4) C. L. T. Griffith (1925) "Gold Coast String Games"
(*5) G. S. Cansdale (1993) "Ghana String Figures"
(*6) C. C. K. Smith (2000) "Some String Figures and Tricks from Sierra Leone and the Gold Coast", BISFA 7: pp.94-100
(*7) W. A. Cunnington (1906) "String Figures and Tricks from Central Africa" pp.123-124
(*8) A. C. Haddon (1906) "String Figures from South Africa” pp.145-146
(*9) J. Parkinson (1906) "Yöruba String Figures" pp.132-141
(*10) T. Saito (2004) "String Figures of Japan", BISFA 11: pp.143-147
(*11) C. F. Jayne (1906) "String Figures: A Study of Cat's-Cradle in Many Lands" pp.24-27
(*12) M. Probert and V. Probert (2011) "Devonshire String Figures from the 1890s", BISFA 18: pp.5
加藤直樹@ISFA

〔追記 2023/09/23

アフリカの手順が異なる4段ばしごは他の文献(*a1)にも掲載されています。 またナイジェリアやガーナには、二本ぼうきと同じ形の「ドラム(*a1)」「ハウサのドラム(*5)」という名称の作品が知られています。

(*a1) K. Haddon & H. A. Treleaven (1936) "Some Nigerian String Figures"
加藤直樹@ISFA