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「ぱんぱんぼうき」日本ほか |
《さいとうたま あやとりコレクション》
両手を合わせて、パッと開くと「ほうき」が現れます。取り方も簡単で幼い子に人気のあるあやとりです。
- パンパンぼうき:山形・山辺
- たたきぼうき:島根・益田
取り方:『あやとりいととり 1』(pp. 6 ぱんぱんぼうき)
このあやとりは日本だけでなく世界各地で伝承されていました。
極北圏では「(鳥を射落とす) 投げ矢」(グリーンランド)、「テント」(カナダ)、「カモ猟の槍」(アラスカ)。カナダ・バンクーバー島のクワクワカワク (クワキウトル) の人々は「タコ (蛸)」・「(ウニに突き刺す) 槍」、その対岸 (北米大陸) 少し内陸部に住む先住民トンプソンの人々は「テント」。南アメリカ、ペルー北東部では「木」。
オーストラリア大陸とニューギニア島を隔てるトレス海峡のマレー島や、メラネシアのローヤルティ諸島・ソロモン諸島では「(魚を突く) やす」。フィジーでは「タコノキ」。
アフリカ大陸では、スーダン北部ヌビア語を話す人々は「秤 (はかり)」と呼び、タンザニアの東沖のザンジバル島では「ココヤシ」の名称が知られています。
Ys 2007/06/16
取り方: ぱんぱんぼうき
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「はたおり」日本 |
《さいとうたま あやとりコレクション》
パターン中央の糸の交差の上下運動を「はたおり」に見立てています。この上下の動きからの連想はそれだけにとどまらず、遊び手たちはいろいろな名前を付けていました。
- はたおり:山形、福島、新潟、茨城、岐阜、滋賀、石川、三重
- バッタン:群馬・下仁田、妙義
(「バッタン」は、鹿威し (ししおどし) と同じ原理で動く水車小屋の装置)
- 水車:長野・清内路
- 踊りアヤ:愛知、島根
- 山踊り:愛知
- 富士山の踊り:滋賀
- やまびこ:愛知
- やっこさん:東京の小学生
(大名行列の先頭で毛槍を上下させながらねり歩く奴さんのこと)
ほかにも、カチカチ山:岐阜 (昭和10年代生まれの姉妹)
ところで、2008年春に放送されたNHKTVの『熱中時間』では、このあやとりがスイスの「ミシン」として紹介されていました。1975年にドイツで制作された『映像百科辞典』に、スイス・バーゼル地方の小学生の女の子が作っている映像があるからです。しかし、日本では明治生まれのご婦人からも採集されており、上記の多彩な呼び名で東北から中国地方まで広く知られていました。この動きのある楽しいパターンは、日本の伝承あやとりと考えてよろしいでしょう。
取り方 (動画・音声):院内課外活動教材ライブラリー
Ys 2008/11/24
取り方: はたおり
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「二本ぼうき」日本ほか |
《さいとうたま あやとりコレクション》
片手の「ほうき」からの連想で、この呼び名が広く知られている。片手の「ほうき」を「松」と呼ぶ地方では、このパターンは「二本松、両手松」などと呼ばれる。
- 二本ぼうき:島根、茨城
- 二段ぼうき:東京、新潟、福島
- 両手ぼうき:岡山、島根
- 夫婦ぼうき:広島
- 二つ松葉:埼玉、宮崎
- 二本松:新潟、愛媛、奈良
- 両松:新潟、兵庫、高知、
- 両手松:徳島
パターン全体を一つの形に見立てる名称もあります:
- 杵:宮城・鳴子町
- 立杵 (たちぎね):鹿児島市
(両端が太く、その間は細く片手でも握れるようになっている杵。月のウサギが餅を搗いている杵でもある。さいとうさんによれば、1977年調査旅行で訪れた奄美大島や沖縄では、まだ実際に使われていたとのこと。)
- 笄 (こうがい):鳥取、島根、京都、岐阜
(日本髪を結い上げる時、髷 (まげ) を形作り固定する道具。本来は実用品であるが、つねに頭に挿しておくものなので、後には装飾品として洗練されるようになった。)
- 鼓:島根、岡山
取り方:『あやとりいととり 2』(pp.4-5 二ほんぼうき)
取り方: 二本ぼうき
このあやとりは日本だけでなく世界各地で伝承されていました。「四段ばしご」とは異なり、さまざまな取り方で作られています。手指だけでなく、口、足指を使ったり、人の手を借りて作ることもあります。北欧のサーミ人や、中国雲南省、インドでは、このあやとりの完成形をもう一人が取り上げ、また同じ形を作る;それを延々とくり返す手法も伝承していました。呼び名もさまざまですが、鳥の脚に見立てたものが最も多いようです。
アフリカ~
- 「雄鶏の脚」:アルジェリア (カビール) (Jayne 1906)
- 「鳥の脚」:エチオピア (カロ) (Wirt 2000)
- 「太鼓の撥 (ばち)」:シエラレオネ (Smith 2000)
- 「小さい太鼓」:シエラレオネ (メンデ);「太鼓」:〃(テムネ);「ニワトリの脚」:〃(フルベ);「ハンモック」・「ハトの尾」:〃(シェルブロ) (Hornell 1930)
- 「鳥の脚」:マリ (ドゴン) (Griaule 1938)
- 「フフ (=木皿でヤム芋をすりつぶす杵)」:ナイジェリア (ヨルバ) (Parkinson 1906)
- 「太鼓」:ナイジェリア (Haddon, K. and Treleavan 1936)
- 「トーキングドラム」:ガーナ (Cansdale 1937)
- 「アヒルの脚」:赤道ギニア (ファン) (Tessmann, Reichert and Sherman 2001)
- 「ダチョウの脚」:スーダン (Hornell 1940)
- 「投げナイフ」:コンゴ (Starr 1909)
- 「木製のスプーン」:ザンビア (Cunnington 1906)
- 「ニワトリの爪先」:ボツワナ (Wedgwood and Schapera 1930)
- 「四羽の鳥」:ジンバブエ (Tracey 1936)
- 「鍬 (くわ)」:アンゴラ (Leakey and Leakey 1949)
ヨーロッパ~
- 「繋がれたロキールの (四頭の) 犬」:スコットランド、アイルランド、イングランド (Jayne 1906)
- 「繋がれた犬の足」:スコットランド・エリスケイ島 (Jayne 1906)
- 「カササギの爪先、カラスの爪先」:ノルウェー・フィンランド (サーミ) (Delaporte 1976)
- 「カラスの脚」:ノルウェー・フィンランド・スウェーデン (サーミ) (Victor 1976)
アジア~
- 「孔雀の脚」:インド (Wirt 1999) (D'Antoni 1996)
- 「ハトの脚」・「ニワトリの脚」:インド・アッサム (Abraham 1999)
- 「ニワトリの脚とトラ」:中国雲南省大理 (Wirt 1998)
- 「鳥の脚」:中国チベット自治区・ラサ (Wirt 1998)
- 「鳥の脚」:ミャンマー (カレン、パダウン) (Hornell 1999)
- 「カラスの脚」:ミャンマー (バマー) (Hornell 1999)
北アメリカ~
- 「シラカバの木 (の二本の枝)」:カナダ先住民 (インヌ) (Waugh and Sherman 2005)
- 「二頭のタコ」:カナダ北西海岸地方先住民 (クワクワカワク) (Averkieva and Sherman 1992)
- 「カラスの脚」:アラスカ・タナナ (Jayne 1906)
- 「カワカマスのはらわた(?)」:カナダ・アメリカ先住民 (オジブワ) (Waugh and Sherman 2001)
- 「カラスの脚」:アメリカ先住民 (オノンダーガ) (Jayne 1906)
- 「二つのホーガン (=伝統的住居)」:アメリカ先住民 (ナバホ) (Jayne 1906) (Wirt, Sherman and Mitchell 2000)
南アメリカ~
- 「タバコの葉を乾かす床」:ペルー (エセエハ=チャマ) (Tessmann, von Hornboste and Haddon, K. 1939)
オセアニア~
- 「先が四本に分かれた槍」:オーストラリア先住民@ベッドフォード (Roth 1902)
- 「エミュー」:オーストラリア先住民@サザンクロス、ラヴァートン (Davidson 1941)
- 「オオコウモリ」:オーストラリア先住民@ヨーク岬 (Haddon, K. 1918)
- 「マタマタ・カレフ」・「鋤 (すき)」:ニュージーランド先住民 (マオリ) (Andersen 1927)
- 「四つのヒョウタン」:パプア・ニューギニア北部海岸地方 (Maude and Wedgwood 1967)
- 「タコノキ」:フィジー (Hornell 1927)
- 「漁網の糸通し (シャトル)」:ローヤルティ諸島-フランス海外県 (Maude 1984)
- 「アヒルの脚」:西サモア (Hornell 1927)
出典文献の詳細は こちら。
ところで、この完成形の糸の走り方は左図上のようになっており、下の形とは全く異なるあやとりと見なされます (写真では見分けのつかないことがあります)。下記の「あやとり数学入門書 (英文)」では、この “鳥の脚” パターンの他、「はしご」、「ギリシアの吊り包帯」、「二匹のクマ」と、それぞれの関連あやとりや「トリック」を楽しみながら、あやとりを数学的に扱う基礎知識を身につけることができます。
Ys 2009/11/17
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「テントの幕」ヘカレーヤアパッチ |
「敷物・毛布」ナバホ |
このあやとりは1904年のセントルイス万国博覧会で採集されました。世界のあやとり研究のパイオニア、ケンブリッジ大学の A.C.ハッドンの勧めで、世界各地の先住民が ‘参加’ している会場を訪れた C.F.ジェーンが、ニューメキシコ州から来ていたネイティブアメリカンのヘカレーヤアパッチ (the Jicarilla Apache) の少女レナから習いました。ジェーンはこのパターンの名前を尋ねましたが、英語をほんの少ししか話せないレナは入り口の方へ行ってドアを軽く叩きました。ジェーンはそれを見て、そのまま「アパッチ・ドアー」と名付け、1906年に刊行した世界初のあやとり専門書に収録。日本のあやとり本でも、意味不明のその呼び名のまま紹介されました。ほんとうの名称、レナが言いたかったのは “ティーピィーの出入り口に掛けられた幕” のことでした。「ティーピィー」とは、ヘカレーヤアパッチの人々の伝統的な住居である大きな円錐状のテントのことです。ジェーンは同じ会場で、もう一人のヘカレーヤアパッチの女性から、その「ティーピィー」のあやとりも習っています → 「ティーピィー」。
この「テントの幕」とまったく同じあやとりは、ネイティブアメリカン・ナバホの人々が今日まで伝えており、「ラグ (敷物)、ブランケット (毛布)」と呼んでいます。
取り方:Wirt, W., Sherman, M., and Mitchell, M. (2000) "String Games of the Navajo." BISFA 7 : pp.119-214.
取り方のビデオクリップ:「ナバホあやとり」のウェブ・サイト Dine Education Web → Activities → Navajo String Games → Text of Introduction with Footnotes → FOOTNOTES: 6. RUG.
ナビゲーションは変更されています
(cf. トピックス 030)
取り方 (動画・音声):院内課外活動教材ライブラリー
Ys 2007/06/16
取り方: テントの幕