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あやとりトピックス 061-070

輪ゴムであやとり 2003/07/26

輪ゴムも閉じたループですから、これを使ってパターンを作るのもあやとり遊びの一種です。「ほうき」を取るときのように、片手をベースにして、もう一方の手で形を作ります。シンプルな形の仕上がりに、ゴムの弾性が効果を現します。このような遊びのあることは、すでに二十年前の本にも記述されています(*1)

以前、「あやとりメーリングリスト」で、この「輪ゴムあやとり」が話題になったことがあります。アムステルダム在住の方が、“五角星 rubber double pentagon” を紹介しました(*2)

  1. 右手の親指と人差し指に輪ゴムをかける。
  2. 左手人差し指を下から輪ゴムに入れ、右手の親指と人差し指の甲に走るゴムを引っ張り出す。
  3. 左手人差し指を向こう、上と回しながら、右手の小指の指先に移す。
  4. 左手人差し指・中指を上から右手の人差し指の輪に入れ、右人差し指の輪の2本をそれぞれ、左手人差し指・中指に引っかけ、右小指・右親指の2本のゴムを越えて手前に引きだす。(画像左:最初の五角星)
  5. 左手の人差し指・中指を、パターン中央の五角形の中へ下から入れながら、指先を上向きにする。
  6. 右手の親指と小指のループをはなす。
  7. 左の人差し指のループを右親指へ、左の中指のループを右小指の指先に移す。
  8. 左手の手のひらを上向きにし、左の人差し指・左の中指を中央の三角形へ下から入れる。右手の親指と小指の甲を走るゴム (=三角形の底辺) を取り、手前・下と回して、左の人差し指を右手の親指のループへ、左の中指をを小指のループに上からつっこみ、その腹側のゴムを引き出す。最初に持っていた方の輪を左手親指を使って押し出しながら、ナバホ的に落とす。
  9. アレンジすると中央に第2の五角星 (画像右)。

メーリングリストでの紹介者は、この遊びを中国人の家族から教わったそうです。私も子供の頃、同様な遊びをしていました。教わったのか、考え出しのか、今となっては、さだかではありませんが、「三角形」や「十字架」を作りました。ほかにどのようなパターンがあるのでしょうか。ご存知の方は、お教えください。

  1. 左手の人差し指と親指に輪ゴムをかける。
  2. 右手で、親指のループを取り上げ、手前に反ひねりしてかけ直す。
  3. 人差し指手前を取り、親指にかける。
  4. 親指の下のループをナバホ的に取り上げ、向こうへ反ひねりしながら、小指にかける。(画像左:中央に三角形、全体的には、「結び柏?」—歌舞伎なら三河屋、落語なら米朝一門の家紋)
  5. 中央の三角形の小指側の一辺を、引き出す。(画像右:十字架—中央に四角形)

追記:「スター・ゲイザー (Star Gazer)」というマジックがあります。これは、2本の輪ゴムを使って、まず、五角星とその枠を作ります。この星形にした輪ゴムが、本当に星形に変身するというものです。後半はマジックですが、前半は上記と同じ趣向です。

(*1) 有木昭久 (1981)『あやとり入門』、保育社、カラーブックス549 : pp.147
(*2) Mathijs van Manen, (2000) "Rubber Double Pentagon" String Figure Mailing List: #90
TS

「子ども放送局」 -2 2003/07/12

先日、トピックス 066 で取り上げた「子ども放送局」:「チャレンジ教室」ひも、ビックリ大変身!~あやとりで遊ぼう~:は、6月28日に予定通り放送されました。番組製作関係者から録画ビデオの提供がありましたので、ここで当日の様子をお伝えします。

主会場の国立オリンピック記念青少年総合センター内の「チャレンジ教室」には、あやとりの先生の武内元代さん(*1)を迎え、生徒さん5名 (女子3名 (小5)、男子2名 (小5、小3))、司会進行役1名が出席。また、副会場の鹿児島県福山町 (黒酢でも有名) 中央公民館には16名の子どもたちが集まりました。副会場の模様はインターネット回線の動画配信によるテレビ電話で本会場に伝えられますが、その画像はややぎこちないものでした。

‘授業’ はあやとりの輪の用意から始まり、各コーナーごとに、様々なあやとりが紹介されました。

  1. あやとり初級:「ゴム」。
  2. あやとり中級:「ほうき」(*2)
  3. あやとり上級:「四段ばしご」。

はじめにビデオで取り方を説明します。次に実際に取っていく場面では、真上からの撮影や、さし棒で取る糸を指し示すなどの工夫がされていました。ここで取り上げたあやとりは、いずれもよく知られているものです。それで、副会場の子どもたちも上手に作れましたが、主会場から遠隔地の子どもたちに教えるという試みそのものについてはまだ改良の余地があるようです。

  1. 知ってる?あやとりコーナー:「富士山」、「チョウチョウ (さかずきからの蝶)」、「朝顔」、「菊」、「トンボ」、「亀」、「カニ」、「漁師の網」、「カモメ」(053)。
  2. 世界のあやとり:阿部昭 さん(*3)が、「引き潮」(クック諸島など)、「テントの扉」、「たくさんの星」、「いなづま」(以上、アメリカ先住民)、「口」(アラスカ)、「バトカ峡谷」(アフリカ)、「2匹の魚」(カロリン諸島:原題は不明)、「のこぎり」(ギリシャなど 038)、「カヌー」(オーストラリア) を紹介されました。「いなづま」は、最後の仕上げの一瞬の展開の仕方で、きれいなパターンになったり、そうでなくなったりするところが子供たちには非常に面白かったようです。「バトカ峡谷」は、初めの取り方が、ちょっとユニークなものです。この二つのコーナーでは、子どもたちも知らないあやとりが多く熱心に見入っていました。
  3. あやとりマジックにちょうせん:「指ぬき」。
  4. 友達といっしょにあやとりをしよう:「二人あやとり」。
  5. 武内先生のあやとりショー:「9つのダイヤモンド」、「れんぞくあやとり」(日本のかまえ—かんむり—さかずき—屋根—富士山—お月さまと雲—日本のかまえ、と元にもどります)、「ひこうき」。

子どもたちは、1時間半のあやとり教室を楽しく過ごしたようです。今回紹介されたあやとりはすべて、出来上がりが対称形のパターンでした。世界のあやとりには非対称形の傑作が数多くあります。また、「はしご」でも、少しのアレンジだけで、それまでには見たことない形が現れるかもしれません。次の機会には、このような試みも教えていただきたいものです。あやとりの世界はまだまだ奥が深いのです。

親御さんから子どもたちへのアドバイス:あやとりをする時は、両手がふさがります。これは、無防備な状態ですから、ボールの飛んでくるような場所は避けて、ゆったりとした気持ちになれる安全な環境でやりましょう。あやとりを始めると夢中になってしまうこともありますから、歩きながらやるのは危険です。また、覚えはじめの頃は、初めから両手で一気に糸を取ることは難しいかもしれません。片手ずつ、もう片方の手は補助にするぐらいの感じでゆっくりと覚えていきましょう。

(*1) 武内元代:『あやとり全書—ひとりあやとり ふたりあやとり ひもあそび』 (1985/12) 池田書店など著書多数。
(*2) 私が子供の頃に教わったのとは、別の取り方でした:最後のところで、手のひらの糸を引っ張ると、ほうきの柄となる、←→手の甲の糸を取り上げて、柄にする。
(*3) 野口広著『あやとり』三部作の名編集者。

〔追記 2005/07/18

この放送のダイジェスト版がオンライン公開されています。 《子ども放送局》の「動画が見られるよ インターネットTV」を選び、上の方にある「チャレンジ教室」をクリック、「番組リスト」→「ひも、ビックリ大変身」(平成15年6/28) を開きます。

TS

「第44回 国際数学オリンピック」 2003/07/03

数学オリンピック財団が主催する、「国際数学オリンピック2003 日本大会」が7月7日から19日まで、国立オリンピック記念青少年総合センター (代々木) で開催されます(*1)。この大会では、世界約86ヶ国の高校生以下の選手が数学の問題解決力を競います。第1回は1959年にルーマニアで開催。以後、回を重ねるにつれ参加国・選手も増え、今日では名実ともに、世界中の数学好きな少年少女の祭典として定着しました(*2)。財団の理事長、野口廣氏は、ISFAの前身、「日本あやとり協会」の設立・運営に中心的役割を果たされた方です。このISFA日本語サイトからも、今回の大会の成功をお祈りしてエールを送ります。


「日本あやとり協会」設立の経緯については、既にこのトピックスで触れました → トピックス 047052。氏は定期的な研究会や、機関誌の編集発行だけでなく、デパートでの ‘あやとり展’ の開催や、テレビ朝日系の人気番組『徹子の部屋』に出演するなど広報活動にも率先して活躍されました。風聞によれば、教室ではたいへん厳しい先生であったとか。髭をたくわえた偉丈夫の氏があやとりを取っている姿を、教え子の皆さんはどのような思いで眺めていたのでしょうか…。1984年には、キャンベラのモウド夫妻 (トピックス 067) を訪問。その帰途、パプア・ニューギニア高地地方で20種を超えるあやとりを収集されています(*3)

ある時、氏は、「CMで使いたいので、アルファベットの “F” の字を作ってほしい」との依頼を受けました。簡単な文字記号のたぐいであれば、作為的に完成形に近づけることは難しくはありませんが、それでは〈あやとり〉の感じにはなりません。〈あやとり〉である条件として、取り方における手の動きが、それなりに自然 (‘優雅’) であることが要求されます。短期間での創作には苦心されたようですが、すっきりとした “F” の字が生み出され、CMでも放映されました。その東京ガスのCMでは、浜美枝さんと女の子が、暖房機のある部屋のカーペットの上に座り、二人が “Fの字” を作り、そのパターンのアップに、ガスFF暖房機のFの文字がオーバーラップしていく感じの仕上がりになっていました。

ここで、そのあやとりを紹介しましょう(*4)

「F」のあやとり — by Hiroshi Noguchi in 1979

  1. 長さ1mくらいのひもを用い、左手親指にかける。
  2. 親指と人差指の間の糸を、一回、左親指に巻きつける。
  3. 左親指に巻きついた輪に、左中指 (あるいは左人差し指) を下から入れ、輪を広げる。
  4. 左親指の向こう側より垂れる糸を左小指の背にかける。
  5. 右親指と人差指とで、左親指手前の糸を持ち、左小指に反時計回りに一回巻きつけ、輪をつくり、この輪を通して、左小指にかけた糸を引き出し、右手を左手の左方へ引く。
  6. 右手親指を上にして (輪のねじれをなくす)、右親指と人差指を左手親指の下に戻し、「F」の形を整える。
(*1) 数学オリンピック財団
(*2) 野口廣 (2003) "第44回 国際数学オリンピック 日本で開催"、『数学セミナー』vol.42 no.7、日本評論社
(*3) Shishido, Y. & H. Noguchi (1987) "Some string figures of highland people in Papua New Guinea" Bulletin of SFA 14:38-69 [初出:野口広 (1984) "パプア・ニューギニア高地民族のあやとり"、「あやとり No.11」 日本あやとり協会:pp.30-58]
(*4) H. Noguchi (1997) "The Letter F" Bulletin of the ISFA 4:234-235 [初出:野口広 (1979) "アルファベットをつくろう"、「あやとりニュース No.2」 日本あやとり協会:pp.3-4]
TS & Ys

「ナウルあやとり」の本 2003/06/28

赤道直下の南太平洋 (東経166°56'、南緯0°31') に浮かぶ小さな環礁、それがナウル島です。ドイツ、イギリスの支配を経て、1968年独立。世界で2番目に小さな国家 – ナウル共和国 – となりました。一般にはあまりなじみのない国ですが、あやとり愛好家の間ではよく知られています。

ナウルのあやとりが〈外の世界〉に知られるようになったのは、1906年刊行の C.F.ジェーン (Caroline Furness Jayne) の著書(*1)からです。ジェーンはケンブリッジ大学のハッドン教授 (Dr. Alfred C. Haddon) らとの交流を通じて、あやとりに興味を持つようになりました(*2)。1904年、「セントルイス万国博覧会」に ‘参加’ していた世界各地の少数民族の人々から、多くのあやとりを収集。その成果を執筆中に、人類学者の兄から彼女のもとへ、ナウルあやとりの15種の標本が届けられます。それは、航海中に島に置き去りにされそのまま定住した一人のオーストラリア人から贈られたものでした。

用紙の上に貼り付けてある、人の髪の毛を編んだ紐で作られた、あやとりの完成パターンを見て、ジェーンは驚嘆しました。そのパターンが、それまでには見たことのない、織物のようにこみ入った幾何学模様になっていたからです → マットエガッタンマ。“ほんとうに「あやとり」として手指だけで作られたのか” と疑いさえしたようです。彼女はその著書の末尾に、この15種のあやとりのイラストを収録しました。そして刊行から31年後の1937年、このナウルあやとりに魅せられた一人のイギリス人女性が現地を訪れることになります。

その人ホナー・モウド (Honor C. Maude) は、南太平洋諸島のあやとり研究の第一人者として、2001年に95才で永眠される直前まで活躍されました。ISFAには、その前身、「日本あやとり協会」に設立当初から参加、数多くの研究発表をされています。モウド女史の生涯については、ISFA主宰者 (Acting director) M. Sherman による読みごたえのある記事があります(*3)

その記事から少し紹介しましょう:

モウドさんは、1929年に生涯の伴侶となるヘンリー・モウド (Henry E. Maude (通称ハリー Harry)) と結婚、そして新天地となる南太平洋の島々へ旅立ちます。その船中で、夫から贈られた一冊の本が「あやとり」との出会いとなりました。その本の著者は、前述のハッドン教授の次女 (Kathleen Haddon) で、ジェーンが若くして亡くなった後、あやとり研究の第一人者となった人です(*4)

ハリーは、ハッドン教授のもとで、人類学を専攻。少年時代にスティーブンソンの『宝島』やメルヴィル『白鯨』を読んで、南太平洋の世界に憧れを抱いていた彼は、その地での研究生活を夢見ていました。付き合っていた女性 (後のモウド夫人) もその話に大賛成。卒業と同時に、The British Colonial Service (英国植民局?) のギルバート・エリス地区の職員に応募して採用され、結婚、旅立ちとなったのです。ハリーは、最終的にはギルバート・エリス地区の Resident Commissioner (地区代表) に任命され、英領を統括した唯一人の ‘学者’ となります(*5)。着任当初から夫妻は、その立場を超えて、島民の自立を支援、二十代の若さで "the Old Man"・"the Old Woman" と敬意を込めて呼ばれていたそうです。

職務のかたわら、ハリーは太平洋諸島の歴史の研究を、夫人はあやとり収集を続けました。1957年、島々での暮らしにピリオドを打ち、キャンベラに安住の地を得ます。ハリーはオーストラリア国立大学教授となり、数多くの著作を発表。一方、夫人はあやとりの研究報告書を次々に発表、この分野の大家となりました。

話を戻して、1931年、モウドさんはジェーンの著書を入手。その6年後にナウル訪問が実現します。6週間の滞在の間に、107種のあやとりを収集。ジェーンの本に描かれていた15種の中の9種も含まれていました。翌年の一日だけの再訪時には、新たに23種の標本を得ています。そのわずか4年後に、日本軍が半数以上のナウル島民をトラック島へ強制移住、多くの人々が帰還を果たせぬままに亡くなりました。もし、モウドさんがこの島を訪れていなければ、ナウルあやとりはそのまま消え去っていたと言われています。この時の取材ノートと標本は、島々を転々とする長い年月の間、失われることなく安住の地へ持ち帰られました。その間、彼女は、収集したあやとりの取り方を忘れないように、毎年ノートを読み返していたそうです。

ようやく1971年、この貴重な記録が一冊の本として発表されました(*6)。この著作は、1978年発足したISFAの会員に多くの刺激を与え、その成果が会誌に次々と発表されています。ナウルあやとりには、いくつかの特徴的な一連の取り方があります。それをマスターしてアレンジを工夫することで、新しいパターンを生み出すことができるのです → 現代のあやとり。近年は絶版で入手できなくなっていましたが、2001年に増補改訂版が刊行されました(*7)

この改訂本の表紙には、Dabwido一族の子どもたちが手に手にあやとりをもっている写真がデザインされています。ナウルあやとりは、滅びることなく見事に復活を遂げたようです。この子どもたちの「あやとりショー」は、2000年10月にニューカレドニアで開催された、「第8回太平洋芸術祭」でも演じられました。そのうち、私たちにも見る機会が訪れるかもしれません。

(*1) Jayne, C.F. (1906) "String figures", published by Charles Scribner's Sons, New York. (Reprint: (1962) "String figures and how to make them" New York: Dover)
(*2) C.F.ジェーンの生涯については:Michael D. Meredith (1997) "Caroline Furness Jayne (1873-1909)" Bulletin of the ISFA 4:1-7
(*3) Mark A. Sherman (1998) "Honor C. Maude - a tribute to the world's foremost authority on Pacific Island string figures" Bulletin of the ISFA 5:1-38
(*4) Kathleen Haddon (1912) "Cat's Cradles from Many Lands" Longmans, Green and co. [first print : 1911]
ハッドン父娘のあやとりにまつわる話は: Henry Rishbeth (1999) "Kathleen Haddon (1888-1961)" Bulletin of the ISFA 6:1-16
(*5) Pacific Island Books:"Slavers in Paradise" by H. E. Maude の紹介文より
(*6) Maude, H.C. (1971) "The string figures of Nauru Island" Libraries Board of South Australia Occasional Papers in Asian & Pacific Studies 2
(*7) Maude, H.C., with members of the ISFA (2001) "The String Figures of Nauru Island" 2nd Edition, revised and expanded. University of the South Pacific Centre at Nauru, and Institute of Pacific Studies, Suva, Fiji. (200 pages)
Ys

「子ども放送局」 2003/06/21

「子ども放送局」は、平成14年からの学校完全週5日制の実施を前に、平成11年に開設された放送局です。メインのスタジオ・事務局は、《独立行政法人 国立オリンピック記念青少年総合センター》内にあります。毎週土曜日10:30~12:00に、文部科学省の教育情報衛星通信ネットワーク「エル・ネット」で、全国の図書館や公民館などの受信会場で見ることができます。再放送は毎週水曜日15:00~16:30。「チャレンジ教室」「夢スタジオ1030」「なんでもやってみよう」など、独自の情報・体験番組を放映しています。子ども放送局ホームページ(*1)で、最寄の受信会場や番組内容が確認できます。

次週6月28日 (土) 10:30~12:00の放送予定は:「チャレンジ教室」ひも、ビックリ大変身!~あやとりで遊ぼう~:となっています。スタジオにあやとりの先生をお呼びして、スタジオ現場・テレビ電話でつながった別の会場・放送を見ている受信会場、それぞれの場所にいる子ども達と一緒にあやとりを作っていくという面白そうな企画です。「あやとりゴム」・「ほうき」・「四段ばしご」・「ゆびぬき」・「2人あやとり」にチャレンジする他、世界のあやとりも紹介されるようです。

あやとりは、手取り足取りで直に伝えていたものですが、テレビやテレビ電話を通じて遠隔地の子ども達に伝える今回の試みは、どのような感じになるのでしょうか。番組をご覧になった方は、感想をお聞かせ下さい。

(*1) 国立青少年センター「子ども放送局」リンク先は存在しません
TS

世界で一番簡単なあやとり 2003/06/14

世界で一番簡単なあやとりは、どのような形でしょうか。創作には、両手の間のループを少しだけ垂らし気味にしただけの「スマイル/チェシャ猫」(ISFA会員 Brian Cox さんの作品) があります(*1)。これは、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』にある、猫の姿が消えて笑いだけが残っているという有名なシーンです。

これを見れば、ループをピンと張って「物差し」というアイデアも出てくるでしょう。その形はすでに、私たちの伝承あやとりにあります:「さかずき/箱枕」から親指をはずして、両手を左右に引き、「電球」・「豆電球」、引ききって「物差し」。

さて、カナダ西海岸沖のバンクーバー島に住むクワキウトル(*2)のあやとりに「ハマトビムシ Sand Flea」があります。一般に、あやとりは、出来上がりを見ただけでは、その作り方は想像もつかないのですが、これは違います。ループにひねりを加え、一方の糸が他方の糸をまたぐようにしてから、持ち替えるだけです。しかも、糸をゆるめたり張ったりすると、ハマトビムシがぴょんぴょんと跳ぶ動きになるのです。簡単でありながら、動きもあり、なかなかユーモラスな仕上がりです。

(*1) 「スマイル/チェシャ猫」は、ISFA会員 Eric Lee さんのサイトで紹介されています:WWW Collection of Favorite String Figures →「The Main Collection」→「World's Easiest String Figure」をクリック。Brian Cox さんのサイトは見つかりません
(*2) このカナダ先住民に対する呼称 “Kwakiutlt (クワキウトル)” は、19世紀末に人類学者が作った学術用語です。今日では、先住民自身の認める正式名称、“Kwakwa̱ka̱'wakw (クワクワカワク)” が使われるようになってきました。
TS

切手に描かれたあやとり -3 フレンチポリネシア 2003/06/07

タヒチ島のあるソサエティ諸島のほか、マルケサス、トゥアモトゥ、オーストラル (ツブアイ) などの諸島群が ‘フランス領ポリネシア’ です。“天国に一番近い島” ニューカレドニアもフランスの海外県ですが、こちらはメラネシアにあります。このあやとり遊びの切手は、1992年に「子供の遊び3種」として発行されました (⇒ あやとりの切手)。あとの2枚には ‘竹馬’ と ‘凧上げ’ がデザインされています。

1929~1934年のトゥアモトゥ諸島での調査によれば(*1)、あやとりは “fai” と呼ばれ、単調な日々の生活の中での楽しみとして伝承されていました。パンダナスの葉片から作った紐を用いることが多く、その偏平な紐からはあまり複雑な模様は生み出せなかったようです。その中にあって、トゥアモトゥ固有の古来から伝承されてきた3種のシリーズあやとりは貴重な記録といえましょう:「TURI」(7パターン)・「MAUI」(9パターン)・「HIRO」(8パターン)。いずれも祖先 (半神半人?) の神話や伝説を描いたあやとりで、どのシリーズにも “Marae マラエ=古代ポリネシアの石造りの祭祀場” のパターンのあることが興味を引きます。あやとりに伴う唄も記録されていますが、英訳されているのがごく一部だけであることが惜しまれます。

この切手に描かれた二人の女の子が広げているパターンは、二人が同じ長さの輪を手に掛け、それぞれ ‘Aの構え’ を作り、向き合って二人の輪を絡ませて広げるという珍しい取り方をします。トゥアモトゥのアナア島では「首長の井戸 (あるいは水浴び場)」と呼ばれていました。真中の大きな四角形が首長用、周囲の四つの小さな三角形が庶民用だそうです。マルケサスでは「マンタ (the great ray fish)」(*2)、オーストラルでは「タロイモ畑」(*3)の名称があります。

このあやとりは、ポリネシアだけでなく、ミクロネシア、メラネシア、パプア・ニューギニア、オーストラリア、ニュージーランドまで広く分布しています。ハワイやギルバート諸島 (現キリバス)、ヤップ島 (現ミクロネシア連邦) では、このパターンを立体化して ‘家’ の形に仕上げます。

私たちの伝承あやとりのレパートリーにはないのですが、島根大学考古学研究室のサイト(*4)で、このあやとりが紹介されています。“なぜ?” とお思いの方は、このサイトの「おまけ」のページをご覧下さい。筆者はこのパターンの新しい名称を見て、思わず笑ってしまいました。このまま伝承あやとりとして定着すれば面白いですね。

(*1) Emory, K.P. & H.C. Maude (1979) "String figures of the Tuamotus" Canberra:Homa Press
(*2) Handy, W.C. (1925) "String figures from the Marquesas and Society Islands" Bishop Museum, Bulletin 18. (*Reprint edition 1971, Germantown, New York: Periodicals Service Co.)
(*3) Stokes, J. F. G., and Sherman, M. A. (1994) "String Figures from the Austral Islands" Bulletin of the ISFA 1:69-150
(*4) 島根大学考古学研究室:「目次」→「西谷3号墓」→「おまけ」をクリック。「西谷3号墓」のページにある、復元模型の写真や復元図も合わせてご覧になれば、このあやとりにふさわしい名称であることがわかります。現在は辿れません
Ys
B-52's Good Stuff

B-52's のCDジャケット 2003/05/31

アメリカのニューウェイヴ・テクノポップ系バンド B-52's が、1992年に発表したアルバム “Good Stuff”。メンバーが3人 (Fred Schneider, Kate Pierson, Keith Strickland) になっての最初の作品です。このアルバムジャケット、Keithがピラミッドを、Kateがリングを持ち、真中でFredが、あやとりの「日本のかまえ」をしている構図になっています。それぞれ、単純な形でありながら、ピラミッド・リング・あやとりが神秘的なイメージを放っています。

当方は、B-52's のことをあまり知りません。このジャケット写真が、何を表現しているのか、B-52's のファンの皆様に、ご教示をよろしくお願いします。

K.K.

『日経サイエンス』の名物コラム 2003/05/24

『日経サイエンス』の名物コラム、「数学レクリエーション」(イアン・スチュアート:英国ウォーリック大学数学研究所) については、あやとりトピックスでも触れたことがあります (トピックス 001トピックス 041)。今回、「あやとりの教育的・学術的アプローチ」に、その記事の概略を載せました。なお、このコラムは、同誌の2001年6月号で最終回を迎え、現在は、ニューヨーク大学クーラント研究所のデニス・シャシャ教授による「パズリング・アドベンチャー」に衣替えしています。

TS

『英辞郎』と「あやとり」英語 2003/05/03

『英辞郎』は、世界最大級の英和・和英の電子辞書。80年代半ばから、翻訳家・プログラマーである道端秀樹氏が仲間 (EDP) とともに編纂作業を続け、最新版の ver.62 (2003/3/10) には、112万語が収録されています(*1)

先日、オン・ラインの検索システム〈英辞郎 on the Web〉(*2)にアクセスして、「International String Figure Association」をサーチすると、

【組織名】国際あやとり協会{きょうかい}

と出てきました。続いて、「あやとり」を検索すると、— 国際あやとり協会{組織名}【あやとり協会】International String Figure Association — となっています。昨年3月刊行の単行本CD-ROM版 (ver.52) にはありません。この1年ほどの間に、ISFAは認知されるまでになってきたのでしょうか。それとも、製作者の遊び心でしょうか。どちらにしてもうれしいことです。

また、「あや取り」と入力すると、三つの言葉が表示されます — "leasing, string figure, cat's cradle"。この中で、"leasing" は、はたおり作業での ‘糸の扱い’ のことを意味します。糸遊びの「あやとり」も糸のやりとりですから、全く関係がないわけではありませんが、混同しないようご注意ください。"string figure"、"cat's cradle" については “Cat's Cradle” (猫のゆりかご) の語源をご覧下さい。

さて、英語辞書で思い出すことがあります。英文のあやとり本では、その取り方の説明文に、"proximal, distal, radial, ulnar" という見慣れぬ単語が使われていることがあります。一例を挙げれば;

"Pass middle fingers distal to distal ulnar index strings, then proximal to proximal radial strings and return with proximal radial strings on backs of middle fingers."(*3)

これらの単語を辞書で調べると、"proximal":最も近い、近接した、…;"distal":末梢の、先端の、…;"radial":半径の、放射状の、橈骨の、…;"ulnar":尺骨の、…となっています。しかし、これだけでは、何のことかわかりません。さらに、意味を追求すると以下のように解釈できます。

proximal → 指の基部に近いということで、「下の方 (の糸)」。
distal → 指の先の方ということで、「上の方 (の糸)」。
radial → 橈骨 (とうこつ) は、前腕の支柱である二本の骨のうち、親指側の骨ということから、「体に近い方 (の糸)」。
ulnar → 尺骨は、橈骨と対になる小指側の骨ということから、「体から遠い方 (の糸)」。

『英辞郎』(〈英辞郎 on the Web〉) に記載されている豊富な用例を見ればわかるように、これらの言葉は解剖学用語でもあるのです。このように、最初にあやとり文献を読んだ時は、英和だけでなく、国語辞典も引かねばなりませんでした。実は、20世紀の初めに、著名な人類学者・動物学者であったケンブリッジ大学教授の A.C.Haddon らが、糸の位置や手の操作を正確に記述するために、このような ‘堅苦しい’ 言葉を用いたのです。

今日では、"proximal, distal, radial, ulnar" の代わりに、"lower/under/below, upper/over/above, near, far" が使われます。しかし、手の位置が逆 (指先が下を向く) の場合では、上下・遠近の関係が逆になるので、前記の解剖学用語で記述している研究者もいます。ちなみに、上記の例文は「中指を、人差指の上の輪の向こう側の糸の上を通し、下の輪の手前側の糸の下を通し、中指の背で、下の輪の手前側の糸を取る」となります。

(*1) EDP
(*2)SPACE ALC」【総合トップページ (英辞郎 on the Web)】
(*3) Maude, H.C. (1984) "String figures of New Caledonia and the Loyalty Islands" Canberra: Homa Press. :pp.18
TS