あやとりトピックス 271-280
「そりを引くトナカイ」 2025/12/24
クリスマスということで、「そりを引くトナカイ」は、以前 トピックス 083 でも取り上げられました。
cited from "ISFA"
カナダ北極探検隊(Canadian Arctic Expedition)に同行していた D. Jennessは、1914年にアラスカのバロー岬 (Point Barrow)沖の国境付近で氷に閉じ込められた蒸気捕鯨船に乗船していた船員からあやとりを採集しました。その船員はシベリアのインディアンポイント (Indian Point)のエスキモーでした。このあやとりは、その中のひとつです。
Jennessの説明では、右が「トナカイ」、左が「そり」です。しかし、示されている図はひっくり返っています。
cited from "Eskimo String Figures"
そうすると、右とはこの図に対してでしょうか、正しいできあがりに対してでしょうか。また、取り方の説明中に、「トナカイの右の水平の糸の上」という表現が出て来ます。これは最初の図の矢印の部分を指します。これでは左が「トナカイ」ということになってしまいます。しかし、最後に「左にそりが残り、トナカイは右に消える」となっているので、やはり左は「そり」なのか?
このようなわけで、どちらが「トナカイ」かという混乱が生じています。おそらく、
- 示されている図は編集者が誤ってひっくり返した
- 「トナカイの右」は誤りで「そりの右」が正しい
ということでしょう。つまり、正しいできあがりに対して、右が「トナカイ」、左が「そり」です。
取り方は こちら (ISFA会員のみがアクセスできます)。
k16@ISFA
「耳の大きな犬」 2025/12/23
「耳の大きな犬」は大変人気のあるあやとりで、あやとりを始めた人の多くが最初の目標にするあやとりです。皆さんは、このあやとりを次の図のように取っているでしょう。犬は右から左に走ります。
cited from "SFM 1-4"
このあやとりは、D. Jennessによってコパーイヌイットから採集されました。著名な人類学者である氏はカナダ北極探検隊(Canadian Arctic Expedition)に同行し、1913~16年に調査活動の一環として多くのあやとりを採集しました。そのうち2年間はコパーイヌイットと共に生活しました。「耳の大きな犬」はそこで採集されたあやとりのひとつです。
その犬は、皆さんが知っているのとは逆に左から右に走ります。つまり、左右の手を逆にして取るのです。
cited from "Eskimo String Figures"
オリジナルとは逆の犬が普及したのは、ISFAが紹介するとき、あえて左右を反転して紹介したためのようです。このあやとりは、複雑な操作をほとんど片方の手で行ないます。ISFAでは右利きの人の便宜のために操作を右手で行なうように変更したのです。現在のほとんどのあやとり教本は右手で行なう「耳の大きな犬」を紹介していると思います。
取り方は こちら (ISFA会員のみがアクセスできます)。
ISFAでは、Jennessなどの採集した極北圏のあやとりを平易な文章に編集して現在の記法に改める取り組みを以前から行なっています。が、いまだ未完成です。
k16@ISFA
バレエ『リーズの結婚』 その2 2025/12/15
トピックス 120 に、バレエ『リーズの結婚』についての紹介記事があります。このバレエは、あやとりの登場する演目としても知られています。どのような演目かはそちらのトピックスを参照していただくとして、このあやとりの場面を
YouTube
で見ることができます。英国ロイヤルバレエ団による第一幕です。いつの公演かはわかりませんが、ここでもあやとりパターンが現れた瞬間、観客が「おおー」と歓声をあげています。
k16@ISFA
あやとりの構造原理を応用した空間デザインの卒業作品紹介 2025/11/20
あやとりをテーマとした大学卒業作品「あやとりパターンを用いた紐の編組による空間構成の提案」(小湊祐奈、宮城大学)が、2025年日本インテリア学会(JASIS)卒業作品展にてWeb公開されました。
JASIS卒業作品展は、日本インテリア学会が1994年から開催している企画で、建築・デザイン・家政・生活・環境など多様な分野の優れた卒業作品が集まる展示会です。その中で「あやとり」を扱った作品が登場したことは、あやとりの造形性や構造性への新たな視点として大変興味深いものです。
本作品では、あやとりの編組原理に着目し、ロープと3Dプリント製アタッチメントを用いて、即時的かつ可変的にあやとり構造を空間に固定する手法が提案されています。さらに、避難所や仮設イベント会場などの利用シーンを想定し、模型によってその活用例が可視化されています。
本作品の制作にあたり、あやとりの分類や過去の事例調査について、協会会員の石野、及び加藤がご協力させていただきました。
あやとりの新たな構造的魅力を示した本作品は、異分野への広がりを感じさせるものです。今後もインテリアやデザインとの接点を通じ、あやとりの可能性がさらに広がることが期待されます。
本作品の詳細な制作意図や設計プロセス、模型の写真等につきましては、上記リンク先よりご参照ください。
報告:加藤直樹@ISFA