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あやとりトピックス 081-090

WinKnot -2 (「はしご」についてQ&A -2) 2004/03/26

「はしご」についてQ&A (トピックス 078) の項で、“「はしご」パターンの、自分の好きなところに、「交わり」と「絡み」を入れることは可能でしょうか?” という質問にお答えしました。今回は、結び目解析ソフト「WinKnot」を使ってその補足説明をします。

(1)
(2)
(3)

はじめに、「二段ばしご」(1) と「すべて ‘交わり’ の四段ばしご」(2)。上下の枠糸が真っ直ぐに走り、パターンの両端で「交わり」を3回くり返して、中のダイヤを形作っています。この糸の走り方が、「はしご」パターンの基本形です (3)。創作はしごのパターンには、上 (下) の枠糸がダイヤの頂点と接する交差で (3回の「交わり」を経て)、枠とダイヤの糸が入れ替わっている場合があります。しかし、これでは出来あがりをきれいに広げることができず、「はしご」パターンとは見なせません。

(4)

この「一段ばしご」(4) の左端は、横向きの「交わり」2回となっています。もし、基本形で「一段ばしご」を作ろうとすれば、一筆書きで描けないので、2本のループを必要とします。

(5)
(6)
(7)

「‘すべて絡み’ の二段、三段、四段ばしご」(5,6,7) も、一端は基本形ではありません。このように、一本のループ・基本形だけで、様々な種類の「はしご」を作ることは不可能なのです(*1)

以上の図は、WinKnotで描きました。次に、これらのパターンのジョーンズ多項式を計算してみましょう。その前に、ジョーンズ多項式についての説明です。以下は、受け売りですが(*2)、結び目を分類するには、個々の結び目が、固有の量で表される必要があります。その固有の量を「位相不変量」と呼びます。これまで、いろいろな「不変量」が考案されましたが、1985年に提案されたジョーンズ多項式で与えられた不変量 (べき乗の和として表現) によって、多くの結び目の識別に威力を発揮するようになりました。

(8)

たとえば、「3葉結び目 (trefoil knot、clover-leaf knot)」には、(8) のパターンと、その交点を逆にしたパターンの二つがありますが、それぞれの不変量は異なり、別の結び目であることがわかります。

(9)

あやとりは「結ばれていない結び目 (自明の結び目 trivial knot)」(9) であり、そのジョーンズ多項式での不変量は 1 となります。

今回、図示したパターン (3、8を除く) をWinKnotで計算させますと、いずれもその値は 1 になります。どういうアルゴリズムで計算させているのかわかりませんが、何か感動的です。ただし、計算に要する時間ですが、CPUが2.4GHzのプロセッサのPCの場合、「一段ばしご (4)」は一瞬ですが、「二段ばしご (1,5)」は5秒あるいは30秒、「伝承の三段ばしご」は10分、「すべて絡みの三段ばしご (6)」ですと15分、「絡みなしの四段ばしご (2)」が3時間、「伝承の四段ばしご (トピックス 089 掲載図)」で12時間ちょっと、さらに「すべて絡みの四段ばしご (7)」は46時間ほどかかりました。このように、交点の数が増えるにつれ、幾何級数的に時間がかかるようになります。

(10)

ところで、このようなこともありました:左のパターン (10) のジョーンズ多項式を計算させると、値は 1 ではなく、t-1-t-2+2t-3-t-4+t-5-t-6 となりました。どうしてだろうかと、パターンを確認すると、イラストの糸の交点の上下 (丸で囲んだ部分) が間違っていたのです。これを修正して (図 (1)) 再計算させると、値は 1 となります。このように、あやとりの形が正しく描かれているかを、ほぼ正確にチェックすることもできるのです。本当に良くできているソフトだと、感心しています。

(*1) 作り方については、「はしご」についてQ&A の引用文献を参照ください。
(*2) 和達三樹 (2002)『結び目と統計力学』(岩波講座物理の世界 —物理と数理 2)、岩波書店

〔追記〕

知恵の糸》BBSでH氏のご指摘 (2004/03/24) をいただきました。ジョーンズ多項式で結び目を完全に分類できるわけではないこと。そして、「自明の結び目」のジョーンズ多項式は 1 ですが、“「ジョーンズ多項式=1」ならば、必ず「自明の結び目」になる” ことについてはまだ完全に証明されていないとのことです。これを受け、上記のように改訂しました。

TS

WinKnot 2004/03/26

知恵の糸》の「あやとりBBS」で話題になっていた「WinKnot」を使ってみました。これは、キャンバスにマウスで結び目を描き、そのブラケット多項式やジョーンズ多項式を計算するソフトです。本来は、結び目の解析用のものです。製作者のサイトからダウンロードすることができます ("Delphi で作ったソフト" → "WinKnot Version 1.01" をクリック)。このサイトはすでに存在しません

あやとりのパターンは、元に戻すと1本の結ばれていないループになります。結び目理論では、「自明の結び目 (trivial knot)」と呼ばれ、そのジョーンズ多項式の値は 1 です。したがって、パターンを描いて、その値が 1 になれば、そのパターンはあやとりで作れることがわかります。

今回は、パターンの描き方について;

まず、あやとりパターンをざっと描き上げます。頂点をドラッグすると、頂点やそれにつながる辺が移動するので、この方法で形を整えます。次に、線と線の交差するところをクリックすれば、交点の上下を決定できます。なお、作業の全ステップが記憶されているので、右クリックすれば、前のステップに戻って頂点を消すこともできるのです。このようにして、あやとりパターンをきれいに描くことができます。

なかなか、面白いです。このように使うことは、ソフトの作者には意外かもしれません。自身、不器用なので、あやとりの作品をうまく描けず、困っていました。これからは、自信が持てそうです。(左図は、「四段ばしご」の作図例)

TS

〔追記 2011/05/29

はまだ塾ドットコム》で、WinKnotの新バージョンのリリースがアナウンスされています。 WinKnot Version 1.02 ダウンロードはこちら。すでにダウンロードできません

TS

ガイアナのあやとり「ジャングルの木」 2004/02/21

「世界のあやとり」のページでは、南米ガイアナのあやとりを幾つか紹介しています ⇒ 「ホエザル」、「オウム」、「カエル」、「ハエ」、「魚を捕らえる罠」。これは、アメリカ自然史博物館の Frank E. Lutz が、1910年頃に動物学探検でガイアナ (当時はイギリス領ギアナ) を訪れた時に収集したものです。

探検隊は、テーブルマウンテンで有名なギアナ高地、ロライマ山 (Mt. Roraima) の東方にあるカイエトゥール滝 (Kaieteur Falls) 近くに1ヵ月間滞在。その時、現地の人々 (the Patamona) を助手として雇いました。その中にいた12才位の男の子、明るく利発な性格で、Lutzに一人前の仲間として認められ、終日彼と行動をともにします。この少年の得意技が「あやとり」。樹皮の内側を剥いだ繊維から作った紐を使って、他の大人たちには作れない形を次々と仕上げます。それを見ていたLutzは、これは記録に残す価値があると思ったのでしょう。自ら紐を手に、この “a champion string figure artist” からあやとりを習い、専門外のレポートを後世に残すことになりました(*1)

今回は、そのLutzの報告書から、「ジャングルの木」を紹介しましょう。英語名は “bush”。その本来の意味は「やぶ、低木」ですが、英語圏の人々と接触した現地の人々の間では、広く “樹木” 一般を指す言葉として使われていました。このあやとりは、間の幹をはさんで、上が枝、下が根を表しています (左図)。皆さんは、このパターンが「木」に見えるでしょうか?

パタモナの人々の居住地は、探検隊のキャンプ地からポタロ (Potaro) 川を遡ったブラジル国境近くにあります。その一帯にそびえ立つ大木には、地表部に現れた板状の根 (‘板根’ ばんこん) を見ることができます。熱帯多雨林の柔らかい土壌に生える巨木を支える板根は時には3mを超える高さにまで成長します。また、水辺に繁茂するマングローブ林、その木々も幹の下部から数多くの ‘支柱根’ を生やして、水中の軟泥土壌に体を固定しています。スコールのため、地面が一時的に水没する場所に育つ木にも、支柱根をもつ種が少なくありません。もうおわかりのように、この地方で暮らす人々にとっては、根が目に見える形で生えているのが「木」なのです。

薩南・琉球諸島には、板根や支柱根をもつ見事な木々があります:徳之島のリュウキュウウラジロガシ、西表島のヤエヤマヒルギ、…(*2)。当地にお住まいの皆さんには、このあやとりが「木」を表していることを、すんなりと受け入れていただけると思います。

ところで、Lutzはこのあやとりを習う時、かなり長い紐を用いたので、枝と根の間がたいへん間延びした形が現れました。それを見た少年は、笑いながらある植物を指差します。それは “liana (リアナ)”、つる植物。熱帯多雨林のつる植物は、茎の太い木本性の種が多く、私たちの思い浮べる、細い茎の巻きついた「つる植物」のイメージとはかけ離れた外観をしています。———板根に支えられた巨木、支柱根の生えた水辺や湿地の木々、そして、長い糸で作ればつる植物;このたった一つのあやとりが、‘ジャングル (=熱帯多雨林の中の密林地帯)’ を特徴づける樹木すべてを表現しているとも言えましょう。

時を経て、1995年とその翌年、ISFA会員のW.Wirtさんはガイアナ西部、南部地方を訪れ、現地の人々から、約20種のあやとりを収集(*3)。その際、このあやとりも伝承されていることが確認されました(*4)。一人の昆虫学者と “あやとり名人” の少年が出会ってからまもなく100年。二人があやとりに打ち興じていた ‘世界の秘境’ も、今日では、セスナで観光客の訪れる地になりました。この間、現地の人々の生活も激変したと思われます。それでもなおあやとりが継承されていたという話には、何かほっとするものがありますね。

(*1) Lutz, F.E. (1912) "String Figures from the Patomana Indians of British Guiana" Anthropological Papers of the American Museum of Natural History 12(1):1-14. Lutz の記述 Patomana は、Patamona の誤りと考えられます。
(*2) これらの樹木の写真は、インターネット検索 [植物名] からどうぞ。
(*3) Wirt, W. (1996) "String Figures from Guyana" Bulletin of the ISFA 3:63-82. Wirt さんの旅行記は "Rain Forest String Figures from Guyana"。
(*4) 伝承者の一人 (the Wai Wai people) は、長い糸で作ったこのパターンを「吹矢筒」と呼んでいます。(前掲書 pp.82)
Ys

エッフェル塔/東京タワー 2004/02/27

「あやとり」という言葉はどういうイメージを喚起させるものでしょうか。あたたかく、ほのぼのとしたイメージ、幼い子供の時代への郷愁のイメージ…。様々なイメージを与える「あやとり」は俳句の題材にもなります。ちなみに、あやとりの季語は「冬」だそうです(*1)

さて、詩人の清水哲男氏はウェブサイト《増殖する俳句歳時記》で、毎日一句ずつ作品と解説を掲載されています。次の句は、このサイトで紹介された有馬朗人氏の作です(*2)

あやとりのエッフェル塔も冬に入る (有馬朗人『立志』(1998) 所収)

この作品には言外に、本物のエッフェル塔が厳しい冬の寒空に向かってしっかりとそそり立つというイメージを想像させながら、それと対照的に、あやとりのエッフェル塔が立っているという、ほほえましさとユーモラスを感じをさせます。そして、おどけてみせる中に静かな決意も感じさせます。また、「エッフェル塔」という促音により飛び跳ねた感じを起こさせます。これが「東京タワー」という語であれば、間延びした音になります。

あやとりの「エッフェル塔/東京タワー」については、読者からのお便りで、3通りあることが紹介されています。ここで、このあやとりについて少し補足しておきましょう。

  1. 「四段ばしご」から作るパターンは、すでに紹介されている2通りがあります:
    1. 片方の手をすぼめて、塔の頂上を作る。
    2. 「はしご」の上下の枠糸の真ん中 (あるいは、真中のダイヤの交点の糸) を口にくわえ引き出す—この場合、両手側が、塔の脚の部分になります。
  2. 「インディアン方式のタワー」とあるのは、「テントの幕」のことです。片方の手をすぼめて、塔の頂上を作ります。

いずれの場合も、「はしご」や「テントの幕」のダイヤの数を増やしてから作るとより効果的かもしれません ⇒ トピックス 078086

最後に、複数のループで「タワー」を作る試みもあります。5人が2本のループを用いて、踊りながら「タワー」を形作る Sylvia Whitman ダンスグループの作品(*3)や、5本のループを使う「りったい とうきょうタワー」(*4)など。これらは、本当に立体的で大きなタワーを作ることになります。

(*1) 水原秋桜子・加藤楸邨・山本健吉 監修 (1981)『カラー図説 本大歳時記 冬』講談社
(*2) ホームぺージにある [作者検索] をクリック
(*3) Elffers, J, and Schuyt, M. (1978) "Cat's Cradles and Other String Figures" New York: Penguin : pp.109
(*4) 有木昭久 (2000)『アンパンマンとあそぼうあやとり』フレーベル館
TS

変化の技法 2004/01/24

「はしご」についてQ&A で触れましたように、4段ばしごの途中で、片方の手 (人差指/中指と小指) にかかっている2本のループを一ひねりすれば、「5段ばしご」が、両手にかかっているループを一ひねりすれば「6段ばしこ」ができます。このように、パターンを展開する前に、ループを “一ひねり/半ひねり” すると、内部パターンが増えることがあります。その例を、「七つのダイヤ」で述べてみましょう。

[一ひねり]:もう一方の手で、その輪の2本の糸をつかみ、その指の周りを一回まわしする。回転方向は、輪のある指先から見て、“時計回り/反時計回り” の二通り。

[半ひねり]:もう一方の手で、輪をいったん取り上げ半回転させてから、再び指に掛け戻す。回転方向は、取り上げた輪を “向こう側/手前側に裏返し” の二通り。

下図の例は、元の輪 (左) を、反時計回りに一ひねり (中)、向こう側に半ひねり (右)。

はじめに、「七つのダイヤ」の作り方を確認しておきます:

  1. Aの構え (両手の親指、小指に輪を掛け、人差指で互いの手のひらの糸を取り合う)。
  2. 親指を、人差指の輪の中に上から入れ、人差指の向こうの糸の下をくぐり、小指の手前の糸を取って戻る。小指の輪をはなす。
  3. 小指を、人差指の輪の上を越え、親指の向こうの2本の糸を下から取って戻す。
  4. 人差指を、その前を横切る手のひらの2本の糸の上にかぶせ、指先を下に曲げ、自身の人差し指の輪の中に入れながら、その2本の糸を押さえ込む。
  5. 親指の輪をはなし、人差指を手前・上と回しながら (それにつれ、人差指の背側の輪ははずれる)、腹側で押さえていた2本の糸を指先に巻きつけて展開 (図A)。
    (A)

さて、1の操作の後に、次の〈ひねりのテクニック〉を入れてから、2以降の操作を行うと、「十三ダイヤ」(図B) となります。

〈ひねりのテクニック〉:[今回の場合は、回転の方向はどちらでもよい]

  1. 両手の親指と小指の輪をそれぞれ"一ひねり"する。
  2. 人差指の輪を"半ひねり"する。
(B)

さらに、ダイヤの数を増やすこともできるのですが、それには別のタイプのテクニックを必要とします。それは、ティコピア島 (現在は、メラネシアの独立国「ソロモン諸島」に帰属) で伝承されてきた、二重のダイヤを増やす技法 (以下、〈ティコピアの技法〉と記す) です。

それでは、「タウマコ (Taumako) のため池」と呼ばれるあやとりでその技法を紹介しましょう。Taumakoは、このパターンを創った昔の首長の名前です。

"Foi nupu Pu Taumako タウマコのため池"(*1)

  1. Aの構え。
  2. 親指で、人差指の手前の糸の上を越え、人差指の向こうの糸を下から取る。
  3. 人差指で、人差し指の手前の糸の上を越え、親指の向こうの糸を下から取る。親指にかかっている輪をはなす。
  4. 親指で、人差指の下の手前の糸を上から押さえ、ほかのすべての糸の下をくぐり、小指の向こうの糸を取る。小指の輪をはなす。
  5. 小指を、人差指の上の輪に上から入れ、そのまま上の輪を移し取る。
  6. 人差指の輪をはなす。
  7. 人差指を、親指の輪に上から入れ、そのまま移し取る。
  8. 親指を、人差指の輪の下を通し、小指手前と人差指手前の糸を下から取る。人差指の輪をはなす。
  9. 人差指を、下から親指の輪に入れ、親指向こうの糸を指先に巻きつける。同時に、その糸 (親指の上の輪) が親指から滑り落ちないように親指を人差指にくっつけ、手のひらを向こうへ向け展開—「タウマコのため池」(図C)。
    (C)

この2~5が、〈ティコピアの技法〉です。5の後、2~5をくり返すごとにダイヤの数は一個づつ増えます (図D) (*2)


(D)

「七つのダイヤ」に戻りましょう。「七つのダイヤ」1の操作の後に、〈チコピアの技法〉を1回入れてから、〈ひねりのテクニック〉、そして、「七つのダイヤ」2以降の操作を行うと、「十九ダイヤ」(図E) となります。さらに、〈ティコピアの技法〉のくり返し回数を2回・3回と増やすにつれ、「二十五のダイヤ」、「三十一のダイヤ」…と、ダイヤの数が6個づつ増えていくのです(*3)

(E)

この二つの技法は、他のいろいろなパターンーたとえば、「テントの幕」にも応用できます。興味のある方は試してみて下さい。

(*1) Raymond Firth, and Honor Maude: "Tikopia String Figures", Royal Anthropolological Institute Occational Paper No.29, Royal Anthropolological Institute of Great Britain and Ireland, 1970 : pp.18
(*2) ダイヤが二つ並ぶパターンは名前なし、三つ並びには、「Kaunga tete」の呼び名がありますが、意味は不明です。(前掲書、pp.21)
(*3) 江口雅彦 (1975) “ふえる・あやとり”、『数理科学 特集寿限無』、サイエンス社、1975/1 : pp.92-97
Masahiko Eguchi et al., Tikopia's Web-Weaving Techniques, BISFA Volume 4 (1997), p75-89
TS

「ココナツ割り」と「星」 2004/01/10

トピックス 082で、ガイアナの「ハエ」と呼ばれるあやとりについて触れました。その出来上りは、真中に結び目のあるX字状の形になっています。そして、両手を叩いて、すばやく、二つの指の輪を外しながら広げると結び目は消えている (ハエが逃げ去る)、という遊びが続きます。

これと同じ趣向の (取り方・完成形の異なる) あやとりは、アフリカやインド、南太平洋の島々にもあります。呼び名は様々ですが、「バッタ」(ウガンダ)、「マルハナバチ」(パプア・ニューギニアのキワイ島) といった昆虫の名前が目立ちます(*1)。両手を叩いて広げるという動作から、虫を捕まえることを連想したのでしょう。日本でも、ガイアナのあやとりは「」の名称で定着したようです。

中には、このパターンと一連の動作を、他のもの/ことに見立てた人々もいます。ここでは、南太平洋のロアイヨーテ (ロイヤルティ) 諸島の「ココナツ割り」、フィジーの「」を紹介しましょう。どちらも同じ取り方をします:

  1. 両小指に輪をかける。
  2. 親指の背で、下から小指の2本の糸を取る。
  3. 右人差指で、下から左手のひらの2本の糸を取る。
  4. 左親指を、左小指から右人差指へ走る2本の糸の上を通し、右手のひらの2本の糸を下から取る。
  5. 左親指には、指先側に今取った2本の糸 (輪)、指元側に2で取った2本の糸 (輪) がある。右手で、その指元側の2本の糸を持ち、指先側の2本の糸を越えてはずす (ナバホとり)。
  6. 右親指の輪をはずす。両手を広げると、X字状のパターンの中央に結び目のある形が現れる (右図)。

ニューカレドニアの東方、ロアイヨーテ (ロイヤルティ) 諸島のリフー島の少年は、このパターンを「ココナツ」と呼び、収集者に次のような遊びを見せました。両手を叩きそのまま開きます。これを何度かくり返して、“今のは、下手な人のココナツ割り”。続けて、両手を叩き、すばやく右人差指と左親指の輪をはずしながら広げます。“これが、上手な人のココナツ割り” (*2)

フィジーでは、「 (Kalokalo)」と呼ばれるこの形が現れたら、次の唄を歌います:

Kalokalo ravuni
Ralako ravuni
Take kendaru
Naru na bau vuni
E dede tolose
(Star, please withdraw your beams,
Let us be hidden,
Let us be hidden for a time,
And shine again.) (*3)
 
星よ、光輝くのをやめて
どうか私たちを隠れさせて
少しの間私たちを隠して
それからまた輝いて

唄の終わりで、リフー島の少年と同じ手法で「星」を消します。

みなさんも、この一連の遊びにふさわしい ‘お話’ を考えてみてはいかがですか。

(*1) Hornell, J. (1930) "String Figures from Sierra Leone, Liberia, and Zanzibar" Journal of the Royal Anthropological Institute 60 : 81-114
(*2) Compton, R.H. (1919) "String figures from New Caledonia and the Loyalty Islands" Journal of the Royal Anthropological Institute 49 : 232-233
(*3) Hornell, J. (1927) "String figures from Fiji and Western Polynesia" Bishop Museum Bulletin 39. (*Reprint edition 1971. Germantown, New York: Periodicals Service Co.). (88 pages) : 17-18
Ys

十二支のあやとり -3 2004/01/01

新年 おめでとうございます。

恒例の十二支のあやとり、今年は「さる」を紹介します。

はじめは、「クチヒゲグエノン」。多雨林地帯で樹上生活をするオナガザルの仲間です。顔面に色鮮やかな模様があり、それが口ひげのように見えるので、この名が付けられました。その特徴である極端に長い尾があやとりに表されています。カメルーン南部・赤道ギニアの東部・ガボン北部に住む、ファン (the Fang = パングェ the Pangwe) の人々のあやとりです。

次は、南米ガイアナの「ホエザル」。1910~20年代にガイアナの各地で収集されています。ホエザルは、英語では、“howler monkey”。その名の通り、遠くまで響き渡る吠えるような鳴き声がよく知られています。木の上に陣取り、集団で吠え、家族の団結を高め、侵入者やライバルを威嚇します。唇を円く突き出し、のど袋の空洞をふるわせて大音量の吠え声を発しているのです。このあやとりでは、そのホエザルの口元が描かれています。収集者の一人、F.E.Lutzは、このあやとりを初めて見たとき、この地方に多いカイマンワニの口元にそっくりだと思いました。ところが、伝承者のパタモナ (the Patamona people) の少年が「ホエザルの口」と言ったのでちょっと驚いたそうです。

皆さんも、“この二つのあやとりは「サル」です” と言われても、あまりピンとこないかもしれません。しかし、現地の人々は、それぞれのあやとりの形に、他の何ものでもない「オナガザル」や「ホエザル」の特徴を見ているのでしょう。

最後に創作を一つ。これは、途中から、ひざの上に置いて、サルを動かせて遊ぶユーモラスな作品となっています ⇒ サル

今年もよろしくお願いいたします。

TS & Ys

シベリア先住民のあやとり「そりを引くトナカイ」 2003/12/20

まもなく、クリスマスです。そこで、この季節にふさわしいあやとりを探してみました。

伝承あやとりには、シベリア先住民の「そりを引くトナカイ」があります。伝承者は、D.Jennessがユーラシア大陸の東端、チュコト半島付近で出会った捕鯨船の船員です。ただし、その船員がチュクチと呼ばれる地元の人なのか、他の地方のシベリア先住民なのか、そのあたりは不明です。“アイヤルロマナのトナカイがそりをひっくり返して逃げていく” という意味の唄が付いています。極寒の地での日々の暮らしの中では、そのようなことも珍しくはなかったでしょう。でも、アイヤルロマナと人名まで残っていることから想像すると、後々まで語り草になるような、ちょっとした ‘事件’ だったのかもしれません。

創作では、ジングルベルの歌から思いついた「鐘が鳴る」、教会で祈りをささげる「修道女」、そして「サンタの帽子」があります。「サンタクロース」、「煙突のある家」、「クリスマスツリー」、「七面鳥」といったあやとりもあれば楽しいでしょうね。皆さんで工夫してみて下さい。

Ys

あやとりビデオ 2003/12/13

最近見た「あやとり」に関わるビデオの話題です。2本はあやとりの取り方を紹介したもの、もう1本はアニメです。


その1:「母と子のあやとり教室」(30分;ハイリッチビデオK.K.)

取り手の右肩斜め上方向からの映像で、次に取る糸を矢印で示す工夫がされています。収録されているあやとりは; 〈一人で遊ぶあやとり〉---「ほうき」、「ゴム」、「七つのダイヤモンド (トピックス 086)」、「めがね」、「菊」、「」、「バナナ」、「さかずき」。

「めがね」は、「 (ガ)」の名称で記録されたアフリカのズールーのあやとり。また、「蚊」は、南米インディオのあやとり (原題は「ハエ」) です。どちらも、1970年代以降、日本のあやとりの本に何度も紹介されてきました。このビデオの「蚊」では、両手を広げた出来上りのところまでで、その後、蚊を捕まえようと両手を叩いて、広げてみれば逃げていたというシーンはありません。

〈マジックあやとり〉---「ひもぬき」、「コインおとし」。
〈これができればあやとり名人〉---「はしご—東京タワー」、「ぶらんこ—糸巻き—トンボ」、「ちょうちょ—富士山—ねこ」、「鉄橋—かめ—ゴム—飛行機—カブト—おたまじゃくし」。
〈二人で遊ぶあやとり〉---「ぺったんこ」、「のこぎり」、「たんぼ—川—たんぼ—かえる (二人あやとり)」。

「鉄橋」からの連続あやとりは、地方によって、取り方・名前に変化があります。《知恵の糸》サイトのアンケートで、このあやとりの情報を求めていますので、ご協力をお願いします。


その2:「あやとりあそび隊」(30分;バンダイビジュアル、1996)

雨の日の室内での遊びとして、あやとり・おはじき・お手玉遊びを紹介。こちらの方は、子供と一緒にあやとりを取っていきますので、メニューも少な目ですし、よりやさしいものを紹介しています。収録あやとりは、「ゴムひも」、「ゆびぬき2種」、「くびぬき」(長目のループでやっています)、「リング落とし」、「まほうのほうき」(伝承では、「パンパンほうき」などと呼ばれています)。


その3:「ビアンカの大冒険~ゴールデン・イーグルを救え~」(77分;ウォルト・ディズニー・ホームビデオ、2002)

15分を過ぎた頃、ハワイの中継基地で、人間が仕事をサボって、あやとりをしているシーンが一瞬見られます。作者は、ダラけた職場の雰囲気を表現するのに、「あやとり遊び」がピッタリだと考えたのでしょうか。

TS

イヌイットのあやとり「空に棲む精霊」 2003/12/06

ISFAでは「極北圏のあやとり」プロジェクトの一環として、1913~18年のカナダ極地探検に参加した D.Jenness(*1)によって収集されたあやとりをオンラインで公開しています ⇒ Part 2ISFAメンバーのみアクセスできます。カナダのマッケンジー川流域や、コロネーション湾岸地方に住むイヌイット、アラスカ・エスキモー、そしてチュコト半島のシベリア先住民のあやとりをお楽しみ下さい。出典であるJennessの研究報告書は、あやとりに伴う唄や言い伝えも数多く記録されており、今でも一級の資料と評価されています(*2)

公開中のページでは、短め、太めの糸を用いて、パターンを作っています。これは、小さな写真でも取り方がわかりやすいようにしているのです。普通の長さ (手の甲に8回巻きつける長さ) よりやや長め、3mm程度の太さの糸で作ると、原著のイラストのように仕上がります。なお、現地の人々は、カリブーやアザラシなどの動物の腱からなめした紐を用いていました。

その中に、コッパー・イヌイットの「空に棲む精霊」があります。Jennessの説明によれば、“この精霊は空に棲み、長いフックを持っている。たまに、地上へ降りて来て、そのフックで人間を殺す。それで人々はこの精霊をたいへん怖れている” (*3)。パターンの中央、水平に折り返された部分が、この精霊の持つ長い ‘フック’ (先が釣針状になった長い棒のようなもの) を表しています。

Jennessは、この精霊を、「evil (邪悪な/不吉な) spirit (精霊)」と述べています。ある種の病気のように、何の前兆もなく突然に人の命を奪い去る ‘自然’ の恐ろしい側面を表した精霊なのでしょう。ただし、これは D.Jennessという異文化育ちの〈外の世界〉の人間による解釈であること、言い換えれば、一つのフィルターを通した見方であることも事実です。今、私たちと同時代を生きるコッパー・イヌイットの世界に、この精霊は存在するのでしょうか。それが知りたいですね。なお、日本のあやとりの本では、このあやとりは「空飛ぶ悪魔」として紹介されました。しかし、「悪魔 (=デビル、サタン)」はキリスト教神学上の存在であり、このあやとりの名前として不適切であると思われます。

(*1) Diamond Jenness (1886-1969)。アラスカの先史時代の遺跡発掘など、数多くの業績を残したカナダの人類学者。
(*2) Jenness, D. (1924) "Eskimo String Figures" Report of the Canadian Arctic Expedition, 1913-1918, volume 13, part B:1-192
(*3) 前掲書:pp.20-21

〔追記〕

ところで、筆者は最近、アリュートの民族誌の書を読み、このあやとりに見られる ‘フック’ とよく似た形の狩猟用の道具があることを知りました(*4)。葉巻状の木の棒 (掲載写真から推定すると、長さ40~50cm程?)、その先端には錘の付いた釣針が;もう一端には長い紐が堅く括りつけてあります。著者の説明によれば、アリューシャン列島に暮らすアリュートの人々は、この「鈎 (かぎ)」と呼ばれる猟具を、絶命して水面に浮かんだトドやアザラシを引き揚げたり、遡上するサケを捕らえるのに使いました。長い紐をしっかりと持ち ‘鈎棒’ を獲物に投げつけ、その体に引っ掛けて引き揚げるのです。

「空に棲む精霊」を伝えてきたコッパー・イヌイットが、この猟具を使っていたかどうかは確認していません。しかし、コッパーもアザラシの狩猟をしていたので、同じような道具をつかっていた可能性はあります。ここからは、〈精霊の持つ長い ‘フック’ はこのような狩猟用具である〉というヒラメキにとらわれてしまった筆者の想像だけの話:::::長い冬の一夜、このあやとりを見せながら、父親は子どもたちに語りかけます;「おまえたちは大きくなって、アザラシを獲るようになるだろう。その時、おまえたちが生きていくのに必要なだけのアザラシを捕りなさい。もし、それ以上のアザラシを殺せば、空からこの精霊が舞い降りてきて、おまえたちを引き裂いてしまうだろう」。:::::

イヌイットもまた、多くの〈無文字社会〉の人々と同じように、人間と動物を同じ ‘生き物’ と見なし、動物たちの生命をみだりに奪うことのない生活スタイルを続けてきました。この精霊は、人間の抱える暴力性や所有欲を抑制する ‘存在’ として生み出されたのではないでしょうか。Jennessの見解を否定するのではありません。ただ、〈無文字社会〉の人々の世界観を表現した原初のアートとして、「あやとり」を ‘鑑賞’ するには、このようなイマジネーションもまた不可欠だと思っています。

(*4) ウィリアム S. ラフリン (スチュアート ヘンリ 訳) (1986)『極北の海洋民 アリュート民族』世界の民族誌 3、六興出版:pp.76-77 (原著:W.S.Laughlin "ALEUTS Survivors of the Bering Land Bridge" 1981)
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