Last updated: 2020/12/19

あやとりトピックス 051-060

「蛾」のあやとり -2 2003/04/26

「蛾 (が)」のあやとり (トピックス 022) に、海外会員の方から反響がありとても嬉しいです。取り方についての問い合わせがありましたので、トピックス 022 の項に掲載しました。

K.K.

映画『スパイダー』 -2 2003/04/19

映画『スパイダー』(⇒ トピックス 057) をご覧になった方から、以下のコメントが届きました。

映画『スパイダー』見ました。わずか2シーンですが、「あやとり」は主人公の孤独な少年時代の象徴でした。
作っていたのは放射線状に広がる「蝶」だと思います (⇒「さかずきからの蝶」)。
誰に教わったかは描かれていません。母親ではないようです

K.K.

〔追記 2005/01/22映画 スパイダー

切手に描かれたあやとり -2 オーストラリア 2003/04/12

今回は、「オーストラリアの子どもたち (Aussie Kids)」(1987年発行) の一枚 (⇒ あやとりの切手)。

オーストラリア大陸に数万年前から暮らしているアボリジニ、17世紀に到来したヨーロッパ人入植者;それぞれの子孫である子どもたちが、仲良く ‘二人あやとり’ を楽しんでいます。この図柄は、オーストラリアの ‘白豪主義’ からの脱却を象徴しているようです。

いつの頃からかはわかりませんが、アボリジニは、世界各地の〈無文字社会〉の人々と同様、さまざまなあやとりを作り続けてきました。20世紀初頭から近年までの、〈外の世界〉の研究者の調査では約400種が記録されています。アボリジニのあやとりは、“String Figure Magazine” や、このサイトでも折々紹介しています — 太陽たつまき水飲み場カメ赤ん坊が生まれる火起こし2本のブーメラン、紐絵風パターン。しかし、これらのあやとりには、それに伴う唄や長い話はありません。

1937年から翌年にかけて、南オーストラリアのアドニャマタナ・アボリジニ (the Adnyamatana) の調査をした民族学者の興味深い報告があります(*1)。それは、当地のあやとりの多くは、いろいろな形が次々と現れる長いシリーズになっていて、取り続けながらそれにまつわる物語が語られた ということです。報告書には、12通りのパターンが現れる「エミュー」、10通りの形が作られる「ディンゴ~少年の通過儀礼」、そして「2匹の蛇」のイラストと名称が掲載されています (取り方と物語は不明)。

11通りの形が作られる「2匹のヘビ」は、この地方の自然の特色ある風景を創造した神話的存在の蛇 (Wiperu, Wulkeri) の遍歴を描いたシリーズです。残念ながら、はじめの三つの形の名称しか記録されていませんが、「ドリームタイム」と呼ばれるアボリジニ独特の神話が語られていたと想像されます。

また、アーネムランドのイッルカラ・アボリジニ (the Yirrkala) には、あやとりの創始者とされる “Wawalik 姉妹” の祭儀があり、祝祭の場であやとりが作られました(*2)。しかし、〈外の世界〉の研究者は、この儀式の全貌や真の意味を知ることはできなかったようです。

2002年、ナバホの人々は "Navajo String Games" のサイトを立ち上げました (トピックス 030 ナバホのあやとり)。同じように、アボリジニの人々が、語りや唄を伴う真の伝承あやとりを〈外の世界〉へ発信することが期待されます。

(*1) Mountford, C.F. (1950) "String figures of the Adnyamata tribe" Mankind 4:183-9
(*2) cCarthy, F.D. (1960) "The String Figures of Yirrkalla" In: The American-Australian Expedition to Arnhem Land, (Ed. C.P. Mountford), Vol. 2:415-511
この論文には、1948年に記録された200種を超えるあやとりが収録されています。しかし、その取り方の記述にミスが多く、実際に作ることのできるあやとりは約10%に過ぎません。その後、ISFAの H.Maude, M.Sherman の忍耐強い作業により、その記述が訂正され、ほとんどすべてのあやとりが作れるようになりました。この改訂版は "Bulletin of the ISFA vol.2 1995" に掲載されています。

追記:ロバート・ローラー著 (長尾力 訳)『アボリジニの世界:ドリームタイムと始まりの日の声』(青土社 2002) には、原初の視覚的芸術としての “綾取り” についての刺激的な言及があります — 第16章 トーテムとイメージ :pp.398-400。

Ys

映画『スパイダー』 2003/03/29

会員の方から、“まもなく公開される映画のCMで、少年があやとりのようなことをしている姿を見ました” とのメールが届きました。その映画は、3月29日に全国ロードショー公開される『スパイダー — 少年は蜘蛛にキスをする』(ディヴィット・クローネンバーグ監督作品、パトリック・マグラア原作)。

この映画の配給元、《ブエナ ビスタ インターナショナル (ジャパン)》のサイト(*)にある予告編ムービーを見てみますと、確かに少年があやとりをしています。予告編が進むにつれ、糸が「あやとり」から「蜘蛛の糸」にイメージされ、さらには、部屋中に張りめぐらされた蜘蛛の巣へと発展していくような印象を受けました。どのようなストーリー展開の中で、この「あやとり」の場面があるのでしょうか。何か「あやとり」には特別の意味が込められているのでしょうか…。ご覧になった方は、情報やご感想をお寄せください。

(*) 《ブエナ ビスタ インターナショナル (ジャパン)》DVD&ビデオ検索からどうぞ。
TS

切手に描かれたあやとり -1 トケラウ諸島 2003/03/22

「あやとり」を描いた切手は何種類あるのでしょうか?このトピックスでは、これまでに海外会員の協力を得て入手された8種の切手を随時紹介します。1回目は西サモアの北にあるトケラウ諸島。

トケラウ諸島は、合計陸地面積が約10平方kmの小さな三つの環礁からなり、イギリス、西サモアの統治を経て、今はニュージーランド領になっています。資源に恵まれず、島民の多くはニュージーランドへ移住し、2002年の人口は約1500人。そのトケラウの主要収入源の一つは切手なのです。

1983年発行の ‘島の伝承遊び’ をテーマとする6種の切手の中に「あやとり (トケラウ語ではTIFAGA)」があります (⇒ あやとりの切手)。描かれているあやとりは、ご婦人の作る ‘三つダイヤ’ と右の ‘一つダイヤ’。この二つのパターンは、"TAFA" と呼ばれる二人あやとりに現れます。

トケラウのあやとりは1927年の調査報告書(*1)に3種記載されているだけですが、その中にもこの "TAFA" があります。ただ、この二人あやとりはトケラウ特産ではなく、取り方の変化を伴いながら、ハワイを除くポリネシア一帯、さらにミクロネシア (ヤップ、トラック) からフィリピンまで分布しています。

‘三つダイヤ’ を、もう一人が取り上げて、右の ‘一つダイヤ’ を作ります。二人が向かい合って、その ‘一つダイヤ’ のまわりの四つの三角形に、二人の親指を入れます。そして、「1回、2回、…」と大声を掛け合いながら、できるだけ速く、パターンをぐるぐると巻き上げるようにして何度も裏返します(*2)。この裏返し操作の競い合いがこの遊びの魅力のようです(*3)。私たちの知っている ‘一つダイヤ’ (一段はしご) ではそのような取り方はできませんが、このパターンは二重構造になっているので、裏返してもまた ‘一つダイヤ’ が現れます。この裏返し遊びの後、パターンを平らな所へ置き、ある取り上げ方をすると、再び ‘三つダイヤ’ (はじめの形とは糸の走り方が異なる) となります。‘三つダイヤ’ が現れるのは、裏返しの回数が偶数回のときだけです。そのあたりにも、この遊びの面白さがあるのでしょう(*4)

(*1) Hornell, J. (1927) "String figures from Fiji and Western Polynesia" Bishop Museum Bulletin 39. (*Reprint edition 1971. Germantown, New York: Periodicals Service Co.). (88 pages)
(*2) それぞれの親指の輪に、人差指を下から入れ、その前を走る ‘ダイヤの辺’ の糸の上に乗せ、ぐるっと巻き取る。親指を抜き、今取った輪を移し取る。
(*3) Jayne, C.F. (1962) "String figures and how to make them" New York: Dover
(*4) トケラウの南方の島国、トンガでは、‘三つダイヤ’ に戻す取り方はなく、二人のどちらかが裏返しに失敗するまで競い続けます(*1)
Ys

上野駅前の「あやとり」像 2003/03/08

街中や駅周辺には、殺風景な眺めの ‘緩衝材’ として、あるいは、待ち合わせ場所の目印として、さまざまなモニュメントが置いてあります。

JR上野駅構内は、昨年2月に、ショップ・ストリート「アトレ上野」として新装オープンし、すっかり様変わりしました。先日、出張でJR上野駅に立ち寄り、キョロキョロ見物していたところ、中央改札口前の広場:グランドコンコースの、情報プラザの前付近、広小路口と正面玄関口とが交差する柱のところに、「あやとり像」を見つけました。

マントを羽織ったおさげ髪の女の子があやとりをしている彫像です。作者は山本正道氏。かわいい両手を目のそばまで持ってきて、無心にあやとりをしています。ただ、あやとりの糸はありません。それで、小さな願いをお祈りをしているような感じの印象も受けます。

この作品の画像は、野外彫刻の発掘・紹介をされている《彫刻天国》のサイトすでにこのサイトはありません、その台東区のページに掲載されています。また、練馬区のページにも、「あやとり」の彫像 (田中昭氏作) があります。こちらの少女は立ち姿です。設置場所は田柄川緑道とありますが、どの辺りでしょうか。機会があれば、実物を見てみたいものです。

TS

先日、上野駅に立ち寄り「あやとり像」を探したのですが、見つかりませんでした。案内所で聞きますと、寄贈者に返還したとのこと。道理で、昨年の夏も見かけなかったのでした。

TS 2004/02/14

最古 (?) の文献資料 2003/03/01

春三月、川のほとりや池の堤に植えられたシダレヤナギ、その糸のような枝が芽吹く季節です。この風情のある木は、遠く奈良時代に中国・朝鮮半島から渡来。以来、万葉の歌人から近代の詩人まで、数知れぬ人々の詩的感興を呼び起こしてきました。

まだ葉が開ききる前の、しだれた枝々が早春のそよ風になびいています。風のもてあそぶがままに、もつれてはほどけ、またもつれる柳の糸の重なりに、あやとりの次々と現れる形を見た人がいました。

風の手の 糸とりとなる 柳かな   俊安

この句は寛文五年 (1665) に刊行された野々口立圃の俳諧集『小町躍』に収録されています。この俳書には、立圃、その師である松永貞徳、そして貞門に縁のある大勢の俳人による膨大な数の発句が並んでいます。わずか二句だけ採られている俊安は、おそらく、無名の人なのでしょう。

この句の評価そのものは専門家に譲るとして、見慣れた早春の風景を “春風が柳の糸であやとり遊びを楽しんでいる” と表現したこの風流人の感性に、あやとり愛好家の皆さんはそのまま共感できるのではないでしょうか。

この発句が、今のところ、日本語で書かれたあやとりについての最古の資料なのです(*)

(*) Shishido, Y. (2001) "Cat's Cradle in the Literature of Early Edo Japan", Bulletin of the ISFA Vol. 8:pp. 21-38
Ys

「カモメ」のあやとり 2003/02/22

40代の男の方から、次のような問い合わせがありました。

はじめまして。
子供があやとりに興味を持ちだし、かつて自分自身「科学朝日」(?) に掲載されていましたエスキモーのあやとり「カモメ」の感動を思い出しました。30年程前には確かにとり方を覚えていたのですが…

「カモメ」の取り方に関する資料の探し方・所在・入手方法等、もしご存知であればご教示賜りますれば幸いです。

(A.K.)

アラスカ・エスキモーの「カモメ」と同じあやとりが、ナバホの「黄金の鷲」として知られています。この取り方は、ナバホのサイトのビデオクリップで見ることができます。子どもの頃に作ったことがあれば、手指の記憶がよみがえり、取り方を思い出せるでしょう。

トピックス 030 ナバホのあやとり」をご覧の上、以下の方法で、チャレンジして下さい。

  1. Dine Education Web》→ Activities → Navajo String Games → Text of Introduction with Footnotes → FOOTNOTES: 8 "Golden Eagle (Airplane)" をクリック。ナビゲーションは変更されています
  2. 「Golden Eagle (Airplane)」のページ、取り方の英文説明の下にある "WATCH VIDEO" をクリック。
TS & Ys

ISFA設立前夜のあやとり研究 2003/02/19

「あやとりデータベース」に「文献リスト」を追加しました。

私があやとりに夢中になったのは、『科学朝日』の記事からでした。その多彩な内容の連載を通じて、子供の頃には知らなかった、はるかに奥深い世界があることを知らされました。今回は、当時 — ISFAの前身の ‘日本あやとり協会’ 発足前の時期 — のあやとり研究の文献を紹介します (⇒ ISFA設立前夜のあやとり研究)。これ以外にも関係論文等をご存知でしたら、お知らせください。

TS

ハートの贈り物 2003/02/09

2月14日は聖バレンタイン・デー。ISFAから皆様へ「ハート」を贈ります(*1)

南太平洋の小さな島国、ツバルには、カップルがキスをする場面を描いたあやとりがあります (「キス」)。バレンタイン・デーの後、このような展開になるといいですね。

(*1) Tetsuo Sato "Hearts and Triangles", Bulletin of the ISFA Vol. 6, 1999:pp. 289-292
TS